リハーサルの後にタイムズ・スクエアを通りかかると、丁度オバマ当選が確定したところだった。ブロードウェイの中州部分に作られた特設シートでは大スクリーンに映し出された結果を見て大歓声が沸き起こり、通りがかるタクシーやトラックはホーンを鳴らして大騒ぎだ。 興奮さめやらぬ中に行われたオバマ氏の勝利演説の中で、ほとんどのニュースが省略してしまった聞き逃せない部分が、朝日新聞の全訳文にあった。「(今日の選挙結果は)若者と高齢者、富める者と貧しい者、民主党員と共和党員、黒人と白人、ヒスパニック、アジア系、先住民、同性愛者とそうでない人、障害を持つ人とそうでない人が出した答えだ。」アメリカという国の成り立ちを再認識させるこの下りで、障害者のことに触れてくれた嬉しさというのは文章で読むよりも、空気を伝わった音で感じ取る方が実感がある。この部分を聞いていて鳥肌の立つ思いをしたのは僕だけではなかっただろう。文字になったものを見てみると、つまりはすべての境遇の人にあてはまる訳なのだが、オバマ氏の言い方には淡々としながらも、含まれて当然であるという信頼と暖かさが感じとれる。ベンの学校の集まりで、もうすぐ18歳になろうとする自閉症の息子さんを持つ母親が、「知的障害者にも、選挙権はあるのですか?」と質問すると、全ての先生が声を揃えて「勿論ですよ」と答えていたのを思い出した。「障害を持つ人とそうでない人」という紛れもなくシンプルな2つの種類は、どちらかを比較する余地もないほどに平等であり、それぞれが請け負ってゆく使命を果たすべく努力をするまでである。選挙当日は選挙報道を見て、結果の出た週を色分けしてゆくという宿題をしていたベンだったが、次の日新聞に大写しされたオバマ氏の顔写真を見て「Barak Obama, President of United States of America」と満面の笑顔で言った。