「環境への働きかけ」を再定義する(10)

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Nice!

構造化をはじめとするTEACCHの手法に対しては、「特殊な環境の下で訓練しても、現実の社会では意味がない」という根強い批判的意見があります。ただ、これまでの議論をふまえて考えると、この意見は、本来「過程」であるはずの療育を、ある「瞬間」に還元するという誤解に基づいている可能性があると考えられるのです。既に書いたとおり、自閉症療育の目的は、「アフォーダンス知覚を発達させ、環境との相互作用の能力を高め、ニッチの広がりと豊かさを向上させていくこと」にあります。つまり最初に考えるべきは、「アフォーダンスを知覚すること」、言い換えると、「環境がもつさまざまな『意味』や『価値』に気づくこと、そしてそれを実際に利用できるようになること」にある、ということができるでしょう。自閉症児は、その部分にまさに困難を抱えていて、現実の社会・環境そのままではそこにあるアフォーダンスが十分に知覚できない状態にあるからこそ、さまざまな具体的な障害が現れてくるのです。これは、車のギアがニュートラルに入っていて、アクセルを踏んでも(周囲からの一般的な働きかけを行なっても)車が前に進まない(その働きかけを子どもが受け止められず、相互作用が始まらない)という状態にたとえられるでしょう。