さて、ここまで、福祉制度の新しい枠組みとしての「ベーシック・インカム制度」について、メリットと思われる部分についてみてきたわけですが、もし本当にいいことばかりならとっくに世界のどこかで実現しているでしょう。そうなっていないのは、やはり問題がある(と思われている)からですね。当然ですが、そのなかでも最大の問題は、財源が足りるのか。ということに尽きるでしょう。最低限の生活に必要なコストを、すべて国が面倒見るということですから、全国民数×最低生活費、に相当する金額を国庫にて確保しなければなりません。そうなると、所得税・法人税等の税率はたとえば50%といったレベルになるでしょう。その結果として、企業や「稼げる個人」、富裕層の資産等が海外に流出し、ますます国家の収入が細り、財政が破綻することが想定されます。端的にいうと、ベーシックインカム制度は、資本主義が当たり前の国際社会の中で、ぽつんと1国だけが実施できる性格のものではない可能性が非常に高い、ということになります。ただし、自国のなかで海外に高付加価値で輸出できるような資源が大量に生産できる場合には、労働によって生み出される付加価値ではないところで富が生み出されますから、1国であってもこの制度に近いものが運営できる可能性が高まります。それは、現在でいうなら「石油産出国」ということになるでしょう。実際、産油国ではベーシックインカムそのものではありませんが社会保障が非常に充実し、衣食住の最低限のものについては国から支給されるような国も少なくありません。さて、話を戻して、では、日本のように資源に乏しく、労働とか商業によってのみしか付加価値を生み出せない国では、ベーシックインカムはまったく不可能なのでしょうか?これは、必ずしもそうではないと思います。というのも、現時点で既に社会保障のために使われているコストというのは非常に大きく、しかもそれら制度は重複していたり、行政の事務手続きに多くのコストが使われていたりして無駄が大きいため、さまざまな社会福祉制度をリストラしてベーシックインカムに統合すれば、1人あたり月数万円程度のベーシックインカムは増税無しで実現できると言われているからです。(つまり、ベーシックインカムというのは「小さい政府で実現する、分厚い社会福祉制度」だということです。)あとは、生きていくためにどうしても必要な衣食住(特に住)について、うまく低所得層向けのセーフティネット的な体制を構築できれば、ベーシックインカムを支柱に据える社会福祉制度は、たとえば日本でも十分に実現可能なのではないかと思います。実際、著名な日本のエコノミストで、ベーシックインカムを推している方は何人もいらっしゃいます。例えば、私も著書を投資などの際に参考にさせていただいている山崎元氏も、ベーシックインカム制度のサポーターです。受給手続きが必要な生活保護よりも、手続き不要なベーシックインカムの方がいいとは思いますが、シンプルすぎて官僚には嫌われる。RT @inoueakihiro: @yamagen_jp @riaken1426 いや、生活保護以下で暮らしているなら生活保護を受ければいいんです。— Hajime Yamazaki /山崎元 (@yamagen_jp) 2014, 11月 12全面改訂 超簡単 お金の運用術著:山崎 元朝日新書さて、ここしばらくベーシックインカム制度の話ばかりしているのですが、そろそろ次回あたりで、一度、これがなぜ「障害者いじめ」の話とつながるのか、といった話に戻したいと思います。(次回に続きます。)