Giant Steps

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Nice!

そうか、それもそうだな。誰かが背中を押してくれなければ、怖くて踏み切れないことも、ドクターの意見なら心強い。今回の健康診断をきっかけに僕らはついにべんを一人で いつもの本屋に行かせるプランを遂行する事にした。

とは言うものの、週末がやって来て実際にその時が来ると決断をするのには勇気がいる。
ベンの勇気ではなく、行かせる側の勇気だけがたった最後に一つだけ繋がった糸だった。
当の本人は「I can walk outside by myself」と嬉しそうだ。

「OK、ベン。横断歩道では必ず車に注意を払って、信号が変わりそうになるときには交差点に入らない。
ストリートを歩いている時や本屋で独り言を言わない。わかったな!」と、僕は過去に何百回と確認したセリフをもう一度繰り返し、「Ok, dad」と全く同じ返事が返ってくるだなのだが、言ってみる事で不安な気持ちを抑え込もうとしていだけだった。

「I am going by myself」と嬉しそうに部屋を出るベン.

実は前回、一人で行かせるフリをして、いつもしていた尾行をかなり離れたところでしてはみたのだが、通りの向こうから見ていても事故を防げるわけでもなく,こちらの気が疲れるだけだった。もう出来る事はわかったのだから、ここは思い切り良く行かせてやれと自分に言い聞かせる。

家を出て10分も経たないうちに電話をしてみた。「ハイ、ベン。」「Hi dad」「すべて大丈夫か?今何処まで行った?」「81 street and two avenue」「2アベニュー? ああ、セカンドアベニューね」

まだ、アパートから5ブロックも離れていなかった。そうか、ベンは信号待ちをきっちりとするので、普通に歩くのの倍かかるのだ。

しばらくたってもう一度電話してみると、今度は丁度本屋に入る前だったので、独り言や、人に迷惑をかけないよう再度注意する。本屋は地下なのでこれで電話は4、50分の間通じなくなってしまう。

しかし、ここまでくると腹も据わるものであまり心配ではなくなり、生まれて以来初めて訪れた「ベンが家に居るのに離れて過ごす休日の時間」を不思議に感じはじめていた。

次に電話をしてみると、何回か圏外になった後、ようやく通じたのは別の店に入っていた後で、何事もなかったようにベンだけの時間は過ぎていったようである。その次に電話をしてみると、もう帰り道の途中で、10分ほどするとガチャリと鍵の音が聞こえアパートに戻ってきた。

「ベン、凄いな。良くやったぞ!」
「Dad, I'm home!」
誇らしげに聞こえるベンの声は、新たなるステップへの第一声だった。