すでにあっちこっちで話題になっているので目にした人も多いかもしれない。そしてまじめな方はこの本を「ユニーク」と言ってしまうとそれだけで反発を感じるかもしれない。アスペルガー症候群の難題 (光文社新書)井出 草平 光文社 2014-10-15 売り上げランキング : 4658
by ヨメレバ
著者の井出草平氏は大阪大学の社会学の研究者で「引きこもり」の問題や社会的逸脱のについて取り組まれている方で、2010年からは「NPO法人発達障害をもつ大人の会」の監事もされている方なので、発達障害者のリアルもある程度ご存じの方と推察される。この本はアスペルガー症候群と犯罪をどう見るかといった本である。ほとんどタブー化されていた犯罪の話がここにきて表に出てきたかとまあ、ちょっとびっくりするとともに、井出氏の著作であることが実は結構びっくりであった。まあ、案の定、ネット上でもリアルでも当事者の評判はあまりかんばしくないし、発達障害児の親御さんにもかなり神経質な反応をする人もいるようだ。「自分or我が子に犯罪予備軍というレッテルを貼る不届きな本」という主張だったり、「こういった本による犯罪との関連づけによって社会に偏見が生じて暮らしにくくなる」といったものが多いようだが、正直私にはなぜそういう主張になるのかよくわからない。この本では適応状態の悪さが講じて犯罪に結びついた例がいくつか挙がっているが、そのケース分析については特に強引な論理展開もないし、「犯罪に至る前にうまいサポートがあったらなあ…」程度のごくごく控えめな態度である。ともあれ、いままでは、発達障害児の子育てや支援教育のあり方について「触法行為を起こさせないために」といった視点が必要だろうという視点の本がでることはなかったどころか、マスメディアでちょっと犯罪と障害の関係などを言及するだけで自閉症協会あたりが毎度速攻で「いわれなき差別や偏見を生じる」というような声明を出してきたことを考えれば、時代の移り変わりを感じさせる本だ。(とはいえ、自閉症協会に関わる研究者も実は自閉症と犯罪についての研究もしていたようである。(リンク先参照))いくら適応状態が悪くても高度なコミュニケーション能力を悪用したような確信犯的な詐欺をするアスペルガーは定型者に比べて少ないと思うし、集団での苛烈なイジメやオヤジ狩りのような集団悪のりエスカレート型犯罪も少ないだろう(調べてないのでこのあたりは想像の域を出ないが)。そんな「なさそうな犯罪」が多いと喧伝するような本では決してないのでさほどの誇張があるとも思えない。定型者にも犯罪の特徴はあるし発達障害者にも特徴がある。それぞれの発達特性に応じて触法行為を抑制していく方策をとっていくほうが効率が良かろうと私は思うのだが、井出氏の主張もそのあたりは大筋似た感じである。最終章で挙げられている対策はちょっと弱いかなというか尻すぼみ感を感じたが、まあ、そこらあたりは立場もあるのだろうかとか勝手に想像している。まあ、何はともあれ毛嫌いしないで読んでみてもいいと思うので紹介。なんでも自分に結びつける癖さえなければさほど抵抗のなく読める本ではないかと思う。