当ブログ殿堂入りの本、「あたし研究」の続編が出ました!
あたし研究2小道 モコクリエイツかもがわ↑2冊並べてみました。ほとんどの本を自炊してしまった我が家で残っている数少ない「紙の本」でもあります。前作は、アスペルガー症候群の著者が、毎日の生活で感じている違和感、困難、周囲と異なる自分の認識傾向、そしてそのギャップを乗り越えて毎日を前向きに生きていくための工夫や考え方などを、著者自身の描くイラストと記事で紹介・解説し、さらにそれらとは独立したコラムとして著者の主治医の(より障害特性として一般化した)解説がはさまれる、という、非常にユニークな構成の本でした。特にポイントは、「著者自身が描くイラスト」というところですね。こういった、障害当事者自身がその障害について語る、いわゆる「当事者本」は、そこで語られるエピソードを過剰に一般化しないこと、そして当事者以外の第三者がヘタに「解釈」しないこと、この2つがとても重要だと私は考えています。そのあたりは前作のレビューでも書いたところですが、あらためて簡単にまとめれば、次のようなことです。1.あくまでも個人のエピソードなので、過度に一般化するとかえって障害について誤った理解を招く恐れが高い。2.当事者が感じ・考えていること、それ自体に最大の価値があって、そこから何をくみとり、それにどういう意味があるかを考えるのは、読んだ人一人ひとりの手に委ねられるべきであって、その前に別の誰かが勝手に「解釈」してしまっては、描かれた世界が歪められてしまって「読者それぞれが考える」ことを妨害してしまう。さて、話を元に戻しますが、本書(本シリーズ)では、当事者である著者自身がイラストを描いていることによって、「イラストにも第三者の解釈が混ざらない」という素晴らしい付加価値が生まれています。本書(本シリーズ)では、全体の半分くらいがイラストページなので、これは非常に価値のあることだと思います。さらにシリーズ新作である本書においては、「主治医の解説」もなくなり、代わりに、著者自身による『子どものころのあたしへの手紙』というコーナーが新設されています。(笑)これは新しいです。というのも、私は上に書いたとおり、当事者本における「第三者による解釈」は、当事者の感性をそのまま見ることができなくなるから邪魔だ、ということをさんざん書いてきました。それに対して、本書では新たに「子どものころのあたしへの手紙」という形で、「当事者本人による解釈」がわざわざコーナーを設けて書かれているのです。読んでみる限り、この斬新な試みは成功しているように思われます。解釈、とはいっても、当事者本人が行なっている限り、それは第三者によるものとは異なって、「当事者の感性を直接見る」ことを妨げるものではありません。かつ、それがコーナーを別にして設けられていることによって、当事者目線からの「事実(認識)」と「解釈」がうまく切り分けられて整理された形になっているように感じるからです。また、主治医の解説コーナーがなくなったことで、「当事者の感性を描く」という意味での当事者本としてさらに純化した形になっています。冒頭の推薦文等を除くと、本書では最初から最後まで、イラストから手紙という形での「解釈」から、後半の文章による説明記事まで、著者ひとりですべてを書いています。そういう意味で、これはかなりの力作ですね。ちなみに、今回取り上げられているトピックは、全部で13トピック(前著は15トピックでした)、前著と比べると、自閉症スペクトラムの障害特性とダイレクトに関連している話題よりも、より高次の認識のしかたのズレや「自己表現」の難しさといった話題に全体がシフトしている印象です。たとえば2つめのトピックとして取り上げられている「痛みの表現」では、「痛みがない」「感じない」という話題ではなく、痛いんだけど、「痛みをことばだけで淡々と表現してしまうために、大したことないと誤解される(らしい)」という内容が主になっています。(ここで興味深いことは、著者は「自分の(痛みを感じたり、表現したりする)世界」しか知らない、ということです。そういう枠組みの中で、上記のような「世界観」を獲得して、本に書いているわけです。その「枠組み」のさらに上位のメタの視点からは、この記事をどう読んだらいいのか?…そういう目線で読んだりすることもできることが、当事者本を読むときの面白さであって、だからこそ余計な「解釈」はいらない、のですね。)そして、前作では、大変感動的な「絵の先生の話」が出てきました。今回も、子どもの頃の著者を静かに支えていた、ある人物の話が出てきます。ほっこりとした、とても心暖まるストーリーです。こういったたくさんの周囲の優しさに支えられて、現在の著者があるんだなあ、世間も捨てたものじゃないなあ、私も何かできることはないかな、そんな気持ちにさせられる、(ある意味本シリーズ恒例となった(笑))そんなエピソードが今回も読めます。さて、そんなわけで、素晴らしい本の続編は、やはり素晴らしい本でした。本書は、「自閉症スペクトラムを知る」というよりは、「著者である小道モコさんが、自閉症スペクトラムとともにどんな風に生活しているのかを知る」という、より「当事者本」的性格が強くなっていますし、当然ながら前著からの続きという側面もあります。ですので、本書を読まれるのであれば、ぜひ前著もまとめて順番にお読みになることをおすすめします。あたし研究小道モコクリエイツかもがわ2冊をまとめて読めば、自閉症スペクトラムのことも、著者である小道モコさんの伝えたいことも、よく分かるでしょう。どちらの本にもちょっと感動的なストーリーも盛り込まれていますので、障害のことを淡々と勉強するだけでなく、「物語」としても十分に楽しめます。著者自身の手によるイラストが中心の本ですので、「自閉症スペクトラム(特にアスペルガー症候群)のことを初めて勉強したい」「ちょっと知りたい」といったニーズにも応えてくれると思います(繰り返しになりますが、そういった目的の場合は特に、「シリーズ1冊めから順に」読むことを強くおすすめします。)「あたし研究」の世界をさらに広げるシリーズ2作目、おすすめです!※その他のブックレビューは、こちら。