アスペルガーのための、精神科医との付き合い方

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Nice!

アスペルガーのQOLをトータルで支えられる精神科医はごく少数だと思う。精神症状に合わせて適切な薬を出す能力と、アスペルガーの問題を本当の意味で理解して的確な解決策を提示する能力は、本来別のものだ。アスペルガーの特性というのは、医師であれ一般人であれ、感覚的に理解できる人は驚くほど理解するが、理解しない人は全く理解しない。両方の能力を兼ね備える医者に出会える確率の低さを思えば、私にできることは、最低限投薬に納得の行く精神科医にかかりながら、診察の場で本当の意味では理解されない苛立ちを、病院の外、理解してもらえる人がいる場所で吐き出すことだと思う。問題の質としては、職場の上司にアスペルガーの特性を理解されない故に暴言を吐かれたときに発生する苛立ちと似ている。精神科医は決して私を罵倒したりはしないが、言葉の端々に私を理解していないことが透けて見えると、萎えてしまう。どちらも私より社会的立場の強い相手なので、不満をぶつけるにはリスクが大きい。上司に文句を言えば解雇の可能性があるし、精神科医に文句を言えば別の医者に行けと言われてしまう。私に合う上司や精神科医が極めて稀であることを知っているので、多少のストレスがあっても、恩恵があるうちには何とか折り合いをつけていきたいと思っている。それでもストレスはストレスだ。アスペルガーという診断は、私の抱える問題を分かってくれる人に出会うきっかけになった。分かってくれる人は、同じ障害名を持つ人たちのなかにいた。問題を共有できれば、解決策も生まれてくる。私がうつだと診断され、自分でもそうだと思っていた頃は、うつの人と問題が重なる部分はあったけれど、本当の意味では悩みを分かち合えなかったし、解決策も生まれなかった。だから、的確な診断を知ることは重要だと思う。的確というのは何を指すのかというと、私がアスペルガーであるかそうでないかは問題ではない。診断名に拘るのは、アスペルガーの病態にこだわりのある医師くらいだろう。医師が私をアスペルガーであると思うか、アスペルガーでないと思うか、広汎性発達障害であると思うか、分類はどうだっていい。問題は、私に関して、現在アスペルガー向けに行われている支援のノウハウがかなりの確率で有効であることだ。的確な支援を利用するためには、アスペルガーであることを前提に動かなければ始まらなかった。医者が私にどう診断を下そうと、それが現実だ。今あるアスペルガー向けの支援が有効な人は、全てアスペルガーの診断名でいいのではないかとすら思う。いわゆる自閉症スペクトラムの圏内にいる人たちについて、細かく分類分けする意味がない。障害の程度が軽かろうと、現在アスペルガー向けに行われている支援のノウハウが有効ならば、多少アスペルガーの定義から外れたところがあろうとも、自分をアスペルガーだと考えて行動することは極めて合理的なことだ。状態の重い、軽い、細かな症状の違いを区別することは、分類に熱心な医師にとっては重要かもしれないが、当事者にとってはとにかく支援を利用できるかできないか、それが全てなのだ。運良く私は精神科医に発達障害を疑われ、発達障害専門医を紹介してもらい、アスペルガーの診断を受けることが出来た。その結果、少しずつではあるが、堂々と支援の恩恵を受けることができるようになった。大抵の精神科医は、アスペルガーのQOLをトータルな面で支えるに足る存在ではないことを自覚するべきだ。精神科医には精神科医にしかできない、的確な薬と診断書を出すという大仕事があるのだから、患者には的確な社会的支援を受けられる可能性の高い診断名を下し、後のことは病院の外に委ねるべきだ。患者には自分に合った支援を求める権利があると思う。アスペルガーと診断されているこそ的確な支援が受けられるし、たとえ受けられなくても、アスペルガーというキーワードには、よりよい生活のヒントが沢山転がっている。アスペルガーと診断されなければ、的確な支援が目の前に転がっていても利用できない。そういう意味では、私は自分に下りた診断名に拘っている。拘って当然だ。でも、アスペルガーであることを私の唯一のアイデンティティにするつもりはない。今の主治医に生活上の工夫についてアドバイスを求めても、薬を出して解決するか、解決策にならないことを提示されて終わってしまう。基本的にアスペルガーという存在を理解しない。対症療法に終始する。だから不満が募る。主治医は、効き目のある可能性のある薬を出してくれ、必要なときには支援施設などに診断書を書いてくれる人だけれど、本当の意味での理解者にはなれない存在だと割り切って付き合いたいと思う。主治医だけでなく、ほとんどの一般の精神科医と付き合うには、薬と診断書のために存在するのだという割り切りが必要だ。アスペルガーを本当の意味で理解してもらえる精神科医を捜そうとするのは、労力がかかりすぎる。精神科医に対して過剰な期待をすることは、アスペルガーにとって不毛なことも多々ある。繰り返すがアスペルガーのQOLをトータルで支えられる精神科医はごく少数であり、出会える確率は奇跡みたいなものだ。本当は理解してもらえる精神科医にかかりたいと、いつだって思っている。それでも心の声は無視して、精神科医には気持ちの支えは望まないと、割り切って付き合うのが現実的だと考えている。少なくとも現在の主治医は私がアスペルガーとして支援を受けることを否定しないし、必要なときには診断書を書いてくれるし、私が望めば処方についても考えてくれるのだから、不足な部分については病院の外で支援を求めて、それでよしとしたい。