不機嫌な職場~なぜ社員同士で協力できないのか (講談社現代新書 1926)河合 太介 / / 講談社スコア選択: ★★★★職場が「一人ひとりが利己的で、断絶的で、冷めた関係性が蔓延しており、それがストレスになる」ことの原因と対策を論じたものである。良いところとして、個人の資質(マッチョだとかウインプだとか)とか世代論(団塊とかバブルとか)に一方的に責を帰して「お行儀を良くしましょう」みたいな説教を垂れるのではなく、社会科学的研究の成果をふまえて考察してあるのが快い。最終的には、そっと、それでも互いに手をさしのべあうことには意義があるのだよと述べてあるのだが、それも個人の努力のみで実現しようというのではなく、職場のシステムを変えることに重きをおいて実現を目指してあるのが、個人的責任と環境の関与のバランスがほどよくとれた論考だと感じられる。ひねくれもせず多責的にもならず、すなおに読める良書だと思う。本書の第2章で論じられている、職場の不機嫌さをうむ問題点「組織のタコツボ化」「評判情報流通と情報共有の低下」「インセンティブ構造の変化」はそのまま、崩壊の進む医療の現場で起きていることのように思える。医療の高度化にともなう専門分化・タコツボ化はある程度は避けられないことだし。インセンティブ構造の変化にしても、世間の人はいまごろようやく自分のキャリア形成を優先するようになったらしいが、医者は昔から自分の診療能力の向上を儲けより優先させるのが美徳とされてきたものだし。こういう問題点は世間の先陣を切って医療業界でまず起きていたことではないだろうか。評判情報の流通ってのは医局の噂話みたいなもんかね。定型発達のひとに聞いてください。私はわからん。崩壊の第一の原因が絶対的なリソース不足にあることは無論なのだが、本書にあるような構造とリソース不足が、ハウリングを起こすかのように、たがいに強めあっているという構図はないだろうか。医師がとつぜん集団退職して診療科や病院の単位で閉鎖に追い込まれている現場では、単純に激務のフィジカルな辛さのみならず、本書にあるような構造の精神的なストレスが、最初の何人かが辞めた時点で爆発したのではないかと思う。