小学校の頃、ギターが欲しくて仕方がなかった僕は、叔母の家に行くと置いてある三味線をつま弾いていた。
ギターとは違うが、弦をはじく感覚が嬉しくて指でポロリポロリとやっていたのだが、バチを使うと攻撃的な音がして長唄の合間などでも一発で妙に存在感があるものだ。
その後目出たくギターを買ってもらったので、三味線で遊ぶことはなくなったのだが、高校に入ってベースを始めると何と三味線のバチ裁きと同じ動きをする弾き方がある。
当時ラリー・グラハムやルイス・ジョンソンが代表格だったチョッパー奏法は、僕にとってはまさに親指が三味線のバチとなったようにも見えたのだった。
おまけに音が格好良い。今まで目立たなかったベースの音が主役になれるこの弾き方は、バンドでギターをやりたかったがじゃんけんで負けてベースになってしまったのを逆に嬉しく思うほどに魅力的なサウンドだった。
そんな理由も手伝って、僕はチョッパー奏法のみでベースを弾き始めたのだが、これが楽しく中毒のようになってしまい、学校から戻ると夕食になるまでずっと練習していたお陰で上達も早く、当時流行っていたディスコのチョッパー・ベースは殆ど弾けるようになり、すぐに人を殴ったりする学校の怖い友達からも一目置かれる存在になる事が出来た。
20年以上の時が流れ、叔母も他界して誰も居なくなった家には三味線が残った。そんな三味線をNYに持って来たのが2年前。街のあちこちで、それぞれの民族がそれぞれの楽器で演奏しているのを見て、自分の民族楽器を持ちたくなったのだ。
久しぶりに弾いてみると、ああ、これは日本の音だなと感動しきり。習ったことも無いので教則本を取り寄せ、ギターと同じ間隔にチューニングをしバチを持って弾いてみると確かにチョッパー・ベースと同じだ。
小学校の頃に開いた楽器の扉に1周して戻ってきた。
7ave SouthのChanto New Yorkにて、毎週火曜に演奏しています。