Quality of Life

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Nice!

「私が死んだ後に、家賃の支払いやトイレの世話は誰がやってくれるのかと思うと。どうすれば良いのか見当もつかないんです」

「持ち家なんですが、私が死んだ後に誰かが息子のためになるようにお金に変えてくれれば良いのですが」

真剣に自分の死んだ後の話をしているのは、皆障害児を持つ親たちだ。

ベンの学校で開かれたワーク・ショップは大手の生命保険会社であるメット・ライフが主催する障害者を持つ親に対してのもので、専門のスタッフがそれぞれのケースをもとに、障害者扶養に関する知識を深めるといったもの。

メット・ライフ・デスクという専門の部門があり、カウンセラーの半分以上が実際に障害児を持つ親、それ以外も障害者サービスに従事した経験のある方だそうで、親身になって解説してもらえるのも納得がいった。

講義の内容はトラスト・ファンド(信託基金)を作り障害者が受取人になるように設定することにより、衣食住をカバーする国からのベネフィットを受けながらも、賄えない部分である教育や、趣味、旅行などの経費を残すことが可能になるというもの。説明用のボードには「クオリティ・オブ・ライフ」と書かれ大きく赤丸で強調された。

ポイントになっているのは、単に銀行などにお金をセーブするだけでは所得と見なされてしまい、課税対象となるばかりか障害者ベネフィットも受けられなくなってしまう可能性があるという点。

信託にしておけば、親が死んでしまった後も決められた条件に見合った事由であれば、その時点での介護人が障害者の生活クオリティの向上の為のみにお金を引き出すことが出来るというわけだ。

メット・ライフがこのワーク・ショップを開く理由は、信託として残しておく財産に生命保険が好都合だからで、最後には「是非これを機会に生命保険に加入しましょう」となるわけなのだが、それにもかかわらず人助け的要素の強い気持ちにさせられるのは、カウンセラーの方の情熱が伝わってくるからなのだろう。

遺言を作っておく為の弁護士を紹介する機関や、18歳を超えても保護者でいるための書類の作成方法など、障害者の親がこれから直面してゆく問題に対する整然とした説明を聞きながら、僕はいつも心の中に抱えている将来に対する不安が和らいでゆくのを感じていた。

一生懸命に聞いていたお父さんが「knowledge is power」と一言。そこにいた誰もが、確かにその通りの気持ちになっていただろう。