障害者いじめの一つの「形」-「聲の形」から(25)

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Nice!

さて、福祉の仕組みを、弱者を認定して該当者にのみ支援を提供するという現行のものから、あらゆる人に最低限の経済補償を提供するベーシックインカム制度に移行させた場合、1つめのメリットとして、このシリーズエントリの前半で議論したような「特権的に支援を受けているがゆえに発生するいじめ、私的制裁」が起こりにくくなる、ということについて前エントリで触れました。それに加えて、これはもう何度も書いていますが、ベーシックインカムは「頑張れば頑張っただけ手取りが多くなる」という仕組みであるためにいわゆる[マイナスのインセンティブ」が発生せず、本当はもっと頑張れるのにあえて(多くの支援を得るために)頑張らなかったりといったことが起こりにくくなる、というメリットもあります。そして、このメリットとも関係するのですが、「障害当事者の自立」という観点からは、非常に重要な3つめのメリットというのが存在すると思っています。それが、働き方のスタイルが非常に柔軟になる。ということです。現在の生活保護的な支援の仕組みでは、「まったく働かない(働けない)」という状態から、「生活保護相当額以上の金額を稼ぐ」というところまでの間は、「どれだけ働いても、あるいは働かなくても、手取りは同じ」です。(生活保護の支援額が、稼いで得た手取り分と同額だけ控除されてしまうため)これは(もちろん本来の趣旨はそうではありませんが)、インセンティブ的には「生活保護相当額以上稼げないなら働いてもムダ」というメッセージを、働こうとしている人に送っているに等しいです。また一方、「働く」というのは、「その人が使える時間を、労働のためにもっぱら拠出する」という行為でもあるので、一般的な勤務時間、拘束され働いた結果として、生活できない金額(端的には生活保護相当額水準)しか稼げない職場では、「労働の再生産」ができません(=フルタイムで働いても生活が成り立たない、ということ)。そのため、生活に必要な金額(生活保護相当額)÷一般的な労働時間=労働者に最低限支払わないと労働者の生活が成り立たない労働単価、という計算式が成り立ち、この最低限の労働単価が「最低賃金」となります。この「最低賃金」は、だいたい新人アルバイトの時給なんかとリンクしていくわけですが、これは賃金水準を維持できるメリットがある一方で、「新人アルバイトくらいの仕事ができないと、働き口が存在しなくなる」というデメリットも生むことになります。例えば、障害当事者の人が、能力や体力の範囲で働こうとしたとき、そのパフォーマンスが「新人アルバイト」の水準に達しない場合、「それなら新人バイトにやらせればいいじゃん」となって、そういう条件で働けるチャンスがなくなってしまう、ということです。つまり、全体的な議論として、現行制度のもとでは、最低でも新人アルバイトの人が頑張って仕事をした場合に相当するくらいのパフォーマンスを出して、かつフルタイムで働いて月収が生活保護相当額を上回るくらいの水準にまで到達すること、これが、「まったく仕事をしない(できない)」からステップアップする「次の段階」のワーキングスタイルになってしまっている、ということになるわけです。この2つの差はあまりにも大きく、とても「スモールステップ」とは言えません。だから多くの人が挫折して、「まったく仕事をしない(できない)」の段階にとどまらざるを得なくなってしまうわけです。もちろん、その差を埋めるために障害者就労のシステムがあるわけですが、これもまた「認定」とか「マイナスのインセンティブ」とかの問題を生む制度になってしまっていることは、これまでの議論をふまえればすぐに理解いただけることと思います。これらの問題を、ベーシックインカム制度はまったく違った角度から解決できる可能性があります。