Giant Steps

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Nice!

ベンは明日で14歳になる。 明日は僕の仕事で家族での誕生会には参加できないので、今日は妻がお寿司を作り、アフタースクールから帰ってくるのを待った。

9時近くになってやっと帰ってきたベンをアパートの前で待ち、ドアを開けると「ハッピー・バースデー」となるという簡単なものだが、実際にやってみると、「My birthday is tomorrow」と素っ気ない。

誕生日にはお気に入りのババガンプ・レストランに行くつもりなので、それを心配している節もある。どちらにしても当日には行く事が出来ないので別の日という事になるのだが、きっちりとした日付で誕生日を祝いたいというのが大切なようだ。

「弟には悪いけれど、誕生日はベンのが感慨深いわ」毎年のように妻がぽつりと言うが確かにその通りで、僕ら家族にとってベンは時計のような役をしていてくれているのかも知れない。

大きな文字盤でゆっくりと動く時計。普通なら早く動かさなければ誰かに追い越されてしまうところを、ベンの時計は自分のスピードを持ち好きなように動いてゆく。

1年の間に、どれだけの事が出来るようになっただろう? 意志の疎通がかなり出来るようになった反面、体が大きくなったことで、小さい頃なら問題の無かったことも今では大問題となる。ただ、時間の感覚がしっかりとして来た事で、予定する事や待つ事に対する辛抱強さ、小さな頃からの課題であった「待つ」ことができるようになってきた。

14年の歳月は、スローモーションのようではあるが、確実に進んでゆく時計だった。そしてそれは家族の時計にもなっていたのだ。

誕生日も近くなった先週、MTVの制作したTrue Lifeというシリーズの「I Have Autism」を見たのだが、そんな気持ちの僕に、突き刺さるような映像の連続で、涙を流さずにはいられない作品だ。

3人の自閉症少年にスポットを当てたドキュメント。特に喋る事が不自由なジェラミーの話は奇跡でもあり、多くの自閉症にかかわる人々を勇気づけるものになるだろう。

3歳で自閉症と診断された彼は、喋ることが出来ず15歳までさしたる変化は無かったのだが、ある時母親の示したアルファベットに反応して、文字を指で指しながら言葉を綴るようになる。
高校の特別学級に通っているのだが、いくつかの授業は普通学級の生徒と一緒に受けており、理解はしているのだが喋ることが出来ないという状態だった彼は、タイプした文章を音声に変換するマシンを学校に持ち込み、クラスメイトとコミュニケートしはじめるのだ。

友達が欲しいといったジェラミーにこれが高校時代最後のチャンスだと思った母親は、懸命にマシンの使い方を教え、今まで1度として開いた事のない誕生会を開くまでのドキュメント。本人はもちろん、厳しくも優しく、そして淡々とした語り口である母親の力強さにも圧倒された。

エンディングの無いドキュメントは、「ああ、ここにも必死で生きてゆこうとしている人がいるんだ」という現在進行形のエネルギーを注入してもらえてような気がする。

そして、ベンにもいつか自分の意志でパーティーを開くことが出来る日が来るのを願わずにはいられない。

同じビデオに登場するサバン症候群を持つ画家の少年が、「自閉症でありたくない。普通のティーンは自閉症でないから」と答えると、父親が息子を抱き寄せた。