京都の平熱 哲学者の都市案内
鷲田 清一 / / 講談社
ISBN : 4062138123
今日は一日病院に出なくて済む日だとなると、なぜか朝早くから目が覚めてしまって午前中に一読した。京都の市バス206系統沿いに京都市を一巡して、コース沿いの風物を色々と論じる書物である。
京都には様々な奇人があるが、彼らはここまでなら社会は受け入れてくれる(逆にこの一線を越えたらアウト)という実例を示してくれるのでよろしいという記述にはなるほどと思った。人格のみならず、服装だって京都には舞妓の豪華絢爛な衣装と托鉢僧の墨染めという両極端があるから、あの間のどこかに入る服装なら京都では受け入れられるということなのだそうだ。
田舎の息苦しさは、そういう実例がなくて、自分の立ち位置が許容される立ち位置なのかどうか分からないところからくるのかもしれないなと思った。確かに変人は田舎にも居るけれども、しょせん人数が限られるから変わりかたの度合いも幅が狭い。まして幼い頃はそういう人の変人ぶりと、彼らへの悪口ばかりが目に触り耳につき、そういう人らでもそれなりに受け入れられているんだなということはなかなか見えにくい。こどもの頃は、故郷の田舎に大人になった自分の居場所があるとは、感覚的に、シンプルに信じられなかった。それがなぜなのかという疑問が本書で少しは解けたような気がした。
そんなこんなでなるほどとは思ったが、しかし本書に紹介される奇人は本当に奇人ばかりで、読んでて幾ばくか不愉快ではあった。話に聞いて興味深がる程度のおつきあいにとどめておきたいものだと思った。いくら田舎をもがき出ても、しょせん私は京都の人ほどには懐が深くなれないのだろう。こういう感覚的な許容範囲は死ぬまでそうそう変わらない。