以前から、虐待によるトラウマを脳科学的に実証する研究は行われていて、近年では医学論文でもたくさんの報告が見られるようになり、最近では一般向けの書物も出てきています。
私は、初めて下の本の訳者の友田先生(熊本大医学部小児発達社会学)の論文を読んだ時、非常に大きな衝撃を覚えたことを記憶しています。自分が臨床の場で漠然としたイメージとして感じていた「子どもたちが心に負った傷は取り返しがつかないのだ」という思いが、科学的な脳画像解析の手法を用いて証明されたという点で「なるほど、やはりそうなんだ」と深く納得できたことが一つの強い衝撃でした。
そしてもう一つは、心の傷が本当に脳に器質的・機能的な変化を起こすというレポートの内容が診療で出会った子どもたちの症状とリアルに重なってしまうという衝撃でした。
虐待を受けた脳は、脳の体積が減少し、機能が低下しているという事実。
特に、注意・記憶や社会性・コミュニケーションをつかさどる領域の異常が顕著であるということ。
それを杉山先生は精神医学的な見地から「第四の発達障害」として、診療や治療に積極的に取り組んでおられます。「月刊 実践障害児教育」連載中から興味深く読んでいましたが、今回加筆修正され出版されたものが下の本です。(前回のブログ記事にもこの本についてコメントを寄せてくださった方がありました。ありがとうございました。)
『心の傷を残したとしても、生き延びる力、人とかかわる力を育てることこそ、新たな子育て文化の核となりうるのではないか・・・子どもを育てることが再び大きな喜びとなるために、新たな文化を創り上げてゆく作業が我々に課せられている』
私の仕事の中でも、まだまだこれから取り組んでいかなければならないテーマの一つになりそうです。