自閉症者の共感能力に関する最新の研究が話題になっている京大・福井大による自閉症スペクトラム者の共感に関する研究のニュースはしばらく前から時々SNSなどで回ってきていたがつい2日3日前もまた回ってきた。興味深い研究であるので取り上げておこうと思う。自閉症スペクトラム症の人は同じ症状の人に共感する - 京大が確認 (マイナビニュース)ニュースサイトのはいつ消えるかわかったもんじゃないので京大の広報のほうへのリンクも貼り付けておく。https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2014/141105_2.htmlどうやらこの研究は、これまでの定説であった自閉症スペクトラム児者は他者への共感が乏しいというのをひっくり返してしまったようだ。確かに自助会などで当事者同士が集まっている場などでは、あるある話で盛り上がることも多く「だよね~」「わかるわかる」「やっぱり~!」なんてセリフが飛び交うのが常であり、自閉症スペクトラム者に共感能力に問題があるなどというのは実際ほとんど感じないので実感としては。共感能力がない? うーん、そうかねえ?文化圏の差?と言いたくなる状況だったのだが、その裏打ちがされたという感じでもある。ま、それはさておき単純に「定説のひっくり返し」のある研究ってのは面白い。(この研究の発案者が「共感能力に乏しい」という定説に疑問をもったきっかけって何なんだろう?という野次馬的興味もムクムク)さて、上に挙げた京大のサイトにある研究者のコメントをちと引用 これまで、ASDがある方は共感性が乏しいと考えられてきましたが、本研究において、ASDがある方はASDの行動パターンをする他者に対して、よく共感できるということが示されました。臨床場面への応用として、ASD傾向の強い方ほど、ASDがある方への支援者にふさわしいかもしれないという知見を提供できると考えられます。教育場面への応用として、特別支援学級をデザインする際にも有効な提言ができるかもしれません。今後は、ASDがある方の他者理解方略を解明し、支援に役立てることをめざします。確かに現状、自閉症児者の支援に自閉症当事者の持つ知識、知見があまり生かされているとは思えない。時折あちらこちらで自閉症児の親御さんの話をくことがあるが「それってこう言えばわかるだろうにな~」なんてのは山ほどある。(定型の支援者にはなかなか想像がつかないものも結構あるようだ)こういう研究を通じて当事者の持つ知識等をもっと有効に生かす道が開けてくるとよいなあと思う。展開が気になるもう一つの理由実は当事者の知見を支援に生かすといった面のほかに、この研究の展開はとても気になるところがある。二つある。 共感に際し、定型者と自閉者で脳の同じ部位が活動すること ミラーニューロン説との兼ね合い共感能力共感に際し脳の同じ部位が活動するということは、自閉症者であっても共感能力自体は阻害されていないということを示唆する。ならばなぜ違いが生じるのだろう?(安直に考えるなら記憶として蓄積しているストーリーのパターンの違いかなとも思う。)それはともかく、この研究により、自閉症という障害の本質が、「共感」の前のステップにあるという可能性が大きくなったということはかなり画期的なことだと思う。ミラーニューロン説との兼ね合い簡単に説明すると、ミラーニューロン説というのは、人は他者の表情なり反応なりを参照した(要するに見た)段階で他者の感情を鏡に映すかのような同様の興奮を起こすミラーニューロンという神経細胞群を持っていて、それが模倣能力や共感能力に関与するという説で、自閉症者ではそれがあまり働かないと言われるという話である。共感方面での具体的な話にするなら釘を踏んづけて痛そうな顔をしている人を見ると自動的にミラーニューロンがはたらき「痛いよ~」という情動そのものが伝わって「痛そうだな~」という共感が起こるが、自閉症児者ではこのシステムがうまく働かないので共感が起こりにくいということらしい。あれ?自閉症者では共感が起こりにくいという話と今回の京大・福井大の研究による共感は可能だという話がかみ合わないと思った方もいるだろう。一見矛盾するこの二つの説だが、ちょいと捻ると矛盾がなくなる。共感という語そのものの定義である。共感というのを某辞書で引くと「他人の意見や感情などにそのとおりだと感じること。また、その気持ち」と書いてあった。だがこれ、実は2種類のものが混じってはいないだろうか?表情や声などの入力からダイレクトに相似形の情動反応を起こし、他者の情動に納得がいくといったタイプの共感と、ストーリー(文脈)理解を介して他者の情動に納得がいくというもののふたつかあると考えれば、ミラーニューロン説による自閉症者の共感性の乏しさの説明と、京大・福井大の研究による自閉症児者にも共感能力はあるという話とは何も矛盾しない。それどころか、この一見矛盾した二つの説により、自閉症児者における他者の感情理解の問題について、個々人のどういった部分が障害されているのかというのを明確にしていくことができるようになる可能性、さらにはアプローチを設計する上でターゲットを絞れる可能性もでてきたではないか。とにもかくにも今後の展開が楽しみな研究である。にほんブログ村 発達障害ランキング↑ブログランキング参加してます。↑応援の1日1クリックを