プロチチ(4)(まんがレビュー)

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Nice!

残念ながら、打ち切り終了になってしまったようです。プロチチ(4)著:逢坂 みえこ講談社 イブニングKCアスペルガー症候群であるがゆえに、大学まではそこそこ順調だったものの社会人になって挫折の連続だった青年が、理解ある女性とめぐりあって結婚、子どもが生まれたのを機に主夫となり、障害特性をいい方向に活かして最高の父親(プロチチ)になっていく、というまんが。始まった頃、アスペルガー症候群を題材にしたまんがを、実力派として知られる逢坂さんが描き、メジャー誌であるイブニングに掲載されるということで、ASD当事者(家族)界隈ではけっこう話題になりました。私も、もともと逢坂さんのまんが(ベル・エポックなど)が好きで、期待してずっと追いかけてきました。プロチチ(1)(2)(3)それから、3年ほどにわたって連載が続いていたのですが、今回の第4巻で完結となりました。ただ、ここ最近のこのまんがの動向をチェックしてみると、残念ながらこれは「打ち切り終了」ということのようです。実際、本巻をみても、最後のほうで急にばたばたと話が展開して強引にハッピーエンド、といった雰囲気が強く感じられますし、これまでにいろいろ張ってあった(と思われる)伏線もほとんど回収されず、唐突感が否めません。本巻の後半、「ラスボス」的な存在として主人公の母親が登場します。この母親は、息子(主人公)を愛するがゆえに、なんとか「普通」になってほしいと願い、息子の至らないところ、できていないところばかりをあげつらって、息子の「良さ」を見ることができなくなっています。久しぶりに再会したときもそのような発言を繰り返す母親の前で、主人公は普段の落ち着いた様子を失い、かつてのように髪の毛をむしりパニックを起こし自信を喪失してしまいます。ここで、もしもっと長く連載する前提であれば、こういう「ラスボス的存在」は、まず最初に登場したときはその手ごわさを示しただけでいったん退場し、その後何度か散発的に姿を現しては主人公の行く手をはばみ(新たな解決すべき問題を提示し)、そして最後にようやく本格的に登場し、全力で「闘って」かろうじて勝利する、みたいな形で展開させるはずでしょう。ところが本作では、いきなり登場して問題行動・問題発言を繰り返す(そしてそれは、これまで子育てしてきた何十年かの間ずっと続いていたことのはず)母親が、たった2,3話(物語の中の日数でも2,3日)で「改心」し、自分の育てかたに問題があったことをあっさりと反省し、態度をあらためて、そのままハッピーエンドで完結、という、不自然なまでの急展開で問題が解決してしまいます。やはりこれは「打ち切り」が決まったことで、後まで温めておいたはずの母親を急いで登場させ、そのまま余裕なくエンディングに持っていった、ということなのでしょう。ただ、率直な感想としては、4巻で完結させてしまってよかったんじゃないかな、と思うところもあります。前巻、第3巻あたりから感じていたことですが、アスペルガー症候群と「子育て」、という本作のメインテーマの部分がかなりマンネリ化してきて、どちらかというと、「妻に隠れての合コン」(第3巻)のような、物語の本筋とは関係ない話題で話をつなぐ(しかもそこにエキセントリックな女性を登場させて、そのエキセントリックさで話を引っ張るなど)傾向が強くなってきている印象を持っていたからです。今回も、前巻の合コンの話をもういちど引っ張ってきた以外は、主人公のASD的な、論理的で・手抜きをせず・図鑑的な知識に詳しく・空気を読まずに正論を吐く、といったキャラクターに周囲の人が説得されたり共感したりしてトラブルを乗り越えて成功する、みたいな、決まったパターンにはまった話が多く、「ASD啓発まんが」として見れば十分に興味深いものの、イブニング誌に掲載される一般まんがとして見れば、やはりマンネリに陥っていると評さざるをえないと感じました。全体的に、主人公の周囲に「障害に対する理解のある人」ばかりをたくさん配置しすぎたのが失敗だったのかな、とも思います。主人公の妻も、主人公のバイト先である書店の店長も、どちらもとても頼もしい主人公の理解者です。そしてもちろん主人公の息子も。こうなると、子育てとバイトで生活が成り立っている(収入は奥さんのほうで安定)主人公は、どう転んでもそんなに深刻なトラブルには巻き込まれなくなってしまいますし、仮に巻き込まれたとしても最長1~2日のオーダーで「助け」を得ることができてしまいます。もちろんそれは現実であれば最高の環境なのでしょうが、「まんがの舞台」としては、「もはやファンタジーレベルで安全すぎて平穏な環境」なのではないでしょうか。ここで、主人公の妻を「夫を愛しているが障害にはあまり理解がない」設定とするか、バイト先の店長を「気長に辞めさせずに見守ってくれるけど障害にはあまり理解が無い」設定としておけば、もう少し緊張度の高い物語になったんじゃないかなあ、と思うのですが…ともあれ、批判的なことも書きましたが、ASDについて考えながら読むまんがとしてはやはり(これまでの啓発まんがと比べれば)頭1つ抜き出た存在であることは違いないので、これまで読んでこられた方は、ぜひ完結巻である本巻までそろえて、最後まで読みきっていただければと思います。ところで、本巻には興味深いことに、「子どもに対してABAを適用してしつけをする」といった話題が出てきます。(第33話)…まあ、こんな感じで、「犬のしつけ」の丸コピーみたいなやり方として登場して、妻から「子どもは犬じゃないんだから餌で釣ったりしたら問題がある」的な反論を受けてやめてしまう、という扱いですから、真面目にABAを取り上げているというよりは、たまたまネタとして「犬のしつけ」的なものをとりあげただけなんでしょうね。実際、本書の最後に出ている参考文献をみても、療育やABAに関連しそうな本は見当たりませんでした。ASDを正面から取り上げているまんがとしては、ABAについてはもう少し(肯定するにしても批判するにしても)深く取り上げて欲しかったな…とは思いました。※その他のブックレビューについては、こちら