夏の終わりに長年飼っていた猫が死に、寂しく感じていたところに新しい友達がやって来た。「ラナ」はアニマル・シェルターに居た雑種の中型犬。履歴を見ると「生後15ヶ月のメス。捨てられた理由は前の飼い主の引っ越し先がペット禁止のアパートであることによるもの」という事だった。以前から、犬を飼うことを考えてはいたのだが、享年19歳だった年老いた猫が居た事もあり、決して現実的ではなかった。しかし今回は、躊躇する理由は1つ無い。出会った時のインスピレーションを信じて手続きを済ませ、翌日避妊手術を施した後、引き取りに行くという段取りとなった。たった一つの心配は、小さい頃から散歩している犬を避けて歩く程犬が嫌いだったベンだったが、犬を探す為にアニマル・シェルターを何度も訪れているうちにかなり慣れて来ているようではある。ただ、実際にアパートへ連れてくるとどうだろう? 家の中で飼うことになるので、怖がってしまうようでは問題だ。そういった心配は興奮した時間が通り越し、あっという間に翌日の受け取り時刻がやって来た。付属の病院の方から出て来た「ラナ」は、まだ一度しか会ったことのない新しい飼い主に喜んで歩み寄ってくる。シェルターの人々に暖かく見送られ、用意しておいたた首輪とリードをつけ、車に乗せて連れて来た。どたどたとアパートに入って来た「ラナ」は部屋中を嗅ぎ回り、家族それぞれを嗅ぎ終えると、手術で疲れていたのかくるりと丸くなって寝てしまった。この小さなアパートに中型犬は大きすぎるのでは思っていたのだが、犬というのはくるりと丸まると意外とスペースをとらないものなのだということもわかった。しかし、犬の存在感は猫の比ではない。家族の一員として生活の一部となってゆくであろうことを実感する。ベンはいつもの感情の入らない言い方で、「I like dog…. LANA, I like you」と言い、怖がる様子はないのだが、近づいてきて飛びつかれてしまうと「Ahh…..Don’t Jump on me」と動揺してしまい、頭をなでるといった余裕は無いようだ。翌日、僕は仕事が立て込んでいたこともあり、昼間から家を空けなければならない。「ラナ」は留守番することになるのだが、問題は最初にアパートに帰ってくるのがベンであるということだった。まだ家族全員が犬に慣れていない状態で、犬が最も興奮する最初の帰宅の大役を授かったベン。玄関のドアから飛び出さないようにベビー用のゲートをセットし、ドアのそばに犬用ビスケットを備えてベンにそれを与えるように張り紙をしておいた。ベンが帰る時刻、出先から恐る恐る電話をしてみると、何事も無いかのように「ハロー」とベンが出る。「ベン、ラナは大丈夫だったかい?」と訊くと、「Yeah…. I gave a cookie to LANA」と言い、さしたる問題も無い様子で通話を終えた。2時間後に家に戻ってみると、ラナは慣れない家でやはりトイレがうまく出来なかったようで部屋のじゅうたんにおもらしがしてあったのだが、ベンには全く関係のない事のようで、いつものように自分の部屋で別世界を作り上げていた。今のベンに動物をかわいがる気持があるのかどうかはまだ解らない。これからこの犬と暮らして行く年月の中で、そんな気持が育ってくれればと犬を見つめるのだった。