立ち止まる時間

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Nice!

丁度去年の同じ時期にベンと手をつなぐ話があった。1年というものは本当にあっと言う間で、今僕らがチャレンジしているのはベンのひとり歩きだ。ブログを読み返すと、その後に危険な交差点の話が出てくる。今もこれが一番の難関なのだが、どう対処しているかといえば、信号は確実に守り、注意を払いながら交差点を渡るという練習だ。僕は黒子となり、5〜10メートル離れて追跡する。一年前のブログにあった、手たたきや、前方不注意に関しては随分と落ち着き、逆に一人で歩くことにより責任感がついたようにも思える。昨日はユダヤ教の祭日なので、NYの公立校は全て休み。こういった持て余してしまう休日には少し離れた57丁目にある本屋まで歩いてゆくことにしている。「ベン、本屋はどこにある?」「59th Street」「えっ、57丁目じゃなかったっけ?」「57th Street」「どこのアベニュー?」「Ahh, 2nd Avenue」「違うだろ?どのアベニュー?」「3rd Avenue, Ahh, I don’t know… Oh, Park Avenue」といったかなりいい加減なものなのだが、歩き出せば決して方向を間違えることは無い。ベンの住所に対する概念は未だに「あそこ」なのである。時折、まだ体を叩いたり、独り言の度が過ぎてしまうこともあるが、大体の部分ではちゃんとアテンションを持って歩いている。交差点では信号を見て止まり、点滅している場合は注意して止まるか、横断中に点滅した場合は急いで渡るなど、上出来だ。渡る時も最初のうち僕の指示を仰いでいたのだが、自分の意思で横断するように言うと「Walk」と言って自分の意思決定で歩き出すようになった。殆どの人が歩行者用信号を無視して歩いて行ってしまう交差点で、車が通り終えた後にもしばらく待ち続けることになるのだったが、どちらにしても一番安全な方法であることには間違いないので、信号が変わってから左折や右折の車にも注意して渡るように教えることで統一させている。問題点は、この信号待ちの時間で、止まっているうちに気が散ってしまい、信号が青になっても気がつかないという点なのだ。景色に見とれていたり独り言を言ったりして、しばし自分の時間に浸ってしまう。ベンの黒子になった僕もNYに来て始めてすべての歩行者信号を遵守することになったのだが、いざ立ち止まってみると今まで気づかなかった色々な景色や匂いに気づかされる。仕込み中のレストランから美味しそうな肉の香りが、見上げたガラス張りのビルの中で働く人が、忙しそうにセルホンで喋る人の会話が、立ち止まってみるだけで随分と落ち着いて感じられて何だか楽しげだ。おまけに、急いでいる人に追いついてしまうこともしばしばで、大した差もないようだ。そうか、やっぱりベンは正しかったのか。