エリスロポイエチン

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Nice!

ジロ・デ・イタリア第13ステージ。平坦な170kmあまりのコース。途中で選手が自転車を止め、路傍の老人を抱擁して、山岳賞の緑色のジャージをプレゼントしてから、おもむろに走り出した。二人とも幸せそうな、よい笑顔だった。実況と解説が、あれはお父さんだなと言っていた。今回のステージのゴール地点のすぐ近くが出身地なんだそうだ。あのジャージを保持しているってことは彼はこれまでの山岳コースを相当に良い成績で走ってきた、優れた選手の筈だが。自転車を止めてプレゼントをわたして抱擁して接吻して、の一連の流れがいかにも自然で微笑ましかった。成熟した、作為のない親孝行。いいなあと思う。イタリアってこういう国なのかと改めて感心した。日本ではなんだか不謹慎だとか不真面目だとかいろいろ言われてしまいそうだけど。あるいは逆に息子を待つ父親の周りをレポーターとかお笑いタレントとかテレビカメラとかが取り巻いてわざとらしい感動を演出しようとしているかもしれない。よい気分になって、アマゾンから届いた自転車雑誌を読んでいると、2008年のジロ・デ・イタリアで山岳賞を獲得した選手が、第3世代EPOの使用が判明してチームを解雇されたと、小さく報じてあった。あの選手なんだろうか。なんだかねえ。親の顔に泥を塗ったようなものだな、とこういうときだけは日本人モード全開で腐してみる。EPOか。第3世代ってのがどういう種類になるのだかよく分らないが、ようするにエリスロポイエチンだろ、と日常に引き戻される。NICUでは超低出生体重児には貧血の対策として毎週2回皮下注射してる薬だ。よい薬だと思っている。でも彼らスポーツ選手が使うのはドーピングだ。競技風景がおおらかなわりには、ドーピングに対してはむちゃくちゃ厳しいと見える。この選手の競技生命は終わるんだろうか。おなじページには他の選手で2年間の処罰期間があけて復帰だとかいう紹介もあったし、まだ20代だったから未来はあるんだろうと思う。今はあのお父さんが立ち直らせてくれてるころだろうと願う。