文藝春秋6月号の「ルポ 世界同時貧困」なる特集の一部として「米国 医者さえ転落する」という記事があり、読んで背筋を寒くした。年収20万ドルを得ていた医師が、医療過誤保険の保険料が年額18万ドルになり、手元に残るのは2万ドル以下と、ワーキングプア同然の水準に転落してしまったという事例が報告されていた。加えて、救急にあふれる無保険の患者と利益中心の病院経営との板挟みで鬱になり、仕事を続けられなくなり、低所得者用食糧配給切符を受給することになってしまった。「まさに転がり落ちた、という表現がぴったりの状態でした」と、デニスはその時のことを思い出すようにして語る。「振り返ってみれば、あの時の自分を鬱にしたものは切り捨てられてゆく患者や生活が貧しくなってゆくことよりも、社会に裏切られたというショックだったんだと思います」「裏切られた、とは?」「医者である自分は、国に守られているはずだという自身がありました。尊敬される立場、経済的にも安定し、多くの人のいのちを救うこの仕事に誇りを持てること。それは社会的に認知され、ずっと続いてゆくはずだったのに・・・。一体どこからこうなってしまったんでしょう?」毎月送られてくる食糧配給切符を見ながら、デニスは時々思う。これは悪い夢ではないかと。俺もまた10年後には、これは悪い夢ではないかと思いながら生活保護の受給の行列に並んでいたりするのだろうか。