仕事の引き継ぎ

16
Nice!

今の職場を辞めるにあたって、仕事の引き継ぎをした。
ポイントは分かりやすく紙にまとめて、私がいなくなった後、困ったことが出来たときに、残った人が後から参照できるようにしたつもりだ。

教えていて思ったのは、今、私は業務の流れを大体把握しているということだ。
アスペルガー症候群の人は業務の概略を掴むのが苦手だけど、できないわけではないということが分かった。
定型が概略から入り、次第に部分を覚えるのとは、覚える順番が違うだけである。

職場に入って当初は、教えられること全てがバラバラで繋がりがなく、与えられた仕事をするので精一杯で、少し失敗すると気配りが足りないと怒られてばかりだったのに、今では業務内容全体が見えてきている。

新しく入ってきた定型の人たちに比べると、私は仕事を覚えるスピードが遅かった。
教えられた内容そのものは実行できるようになるけれど、応用がきかなかったのだ。
教えられた通りのことしかできなくて、

「これができれがあれもできるだろう」

と、定型からは当然のように思われるようなことが、アスペルガー症候群の私にはできなかった。
結果、気が利かない人になっていた。
一つ一つ失敗を繰り返しながら細かいことを覚えていくしかなかった。

ところが、ひとたび細かいことを覚えた今になって、全体が見えてくるようになった。
そうなると、概略から入る定型に比べて、細かいことを覚えている私は、全体が見渡せ、かつ細かいところへの気配りができる状態になった。

もちろん気配りといっても、人の顔色を窺って、場面に応じて対応を変えるような器用なまねはできない。
人の顔色などというものは、読んでも読み違えて、こちらが一人勝手に落ち込んだりするだけなので、読む必要はない。
人に仕事を教えるときも、相手の不安そうな表情というのは分からないし、そもそも教えているときは教えることに夢中になってしまうので、相手の顔を見ていないように思う。
それはアスペルガー症候群である限り、できないと割り切るしかない。

ただ、例えば、相手が不安を訴える言葉の表現は、覚えてしまえば分かるようになる。
私は人の表情を見るのではなく、人の言葉を聞くことで、相手を理解したような振る舞いをすることができる。

相手の気持ちは分からなくて良い。
そんなものは、分かったつもりになる方が、おこがましい。

業務を教えるにあたって、私が相手から知る必要がある情報は、仕事をする上で相手に何が欠けているか、相手が何を不安に思っているかである。
仕事をする上で相手に欠けていることは、実際共に業務をこなしてきたから分かるし、相手が不安に思っていることは、入った時期が最も早くかつ社内の身分が同じである私に一番訴えてくるから、自然と分かる。
私は相手に必要な知識を教え、相手の不安を解消するための情報を提供するだけである。

教えた結果、もし相手に分からない点があったとしたら、今月中は私がいるのだからいくらでも質問する機会があるし、もし分からない点があって何も聞かないなら、今後仕事が立ち行かなくなっても、私の責任ではない。

今回はこれまでになく良い辞め方ができると思っているのだけど、どうだろうか。