発達障害の特性はどこまで不変なのか?
巷に出回っている専門家の書いた発達障害関係の本を読んだり、講演などを聴きに行くとたいていの場合私の頭の中にはハテナマークが大量にわいてきて踊り出す。
啓発活動だとかテレビの特集番組などでよく言われる「正しい理解がないことが問題の根源」ってな説明にもひどく違和感がある。
ツッコミを入れたくなるところが満載なのだ。
今日はその中でASDとAD・HDに関して一番ツッコミを入れたくなるところについて語ってみる。
発達障害っていったいどんな障害?特性は不変なの?
発達障害の症状は多彩である、そして、その特徴のいくつかは健常者でも起こりうることだ。
出がけに鍵が見つからなくて困った…なんてのは定型者でもやったことがある人は少なくないだろう。
遅刻、これも発達障害者に限ったことではない。
不器用、集中力が続かない、要領が悪い等々、定型者でもあり得ることなだけに怠けととられやすい部分でもある。
(さすがに感覚過敏はあまり定型者にはないようだが)
どうも境界が非常にあいまいである。
発達障害をdisabiloty(何かをできないこと、できなさ加減)と捉えようとしても捉えきれない。
そしてさらに、発達障害者の中には定型者同様のパフォーマンスを上げる人間もいることが話をさらにややこしくする。
あれこれの特性は一生つきあうものってのもどうも納得がいかない部分も多い。いまよく挙げられる「特性」とやらが変わる人間をずいぶん見てきてしまったし私自身も結構あれこれ変わってきた。
多少の工夫でごく普通に生活し、たいして困ってないとなると「disorder」というのもちょっと合わない。
じゃあ、発達障害とその特性っていったいなんなんだ?
ということをずっと疑問に思ってきた。
発達障害はリスクである。
発達障害ってどんな障害なのか?時折思い出したように考えていたのだが、先日他の疾病と比較して考えていた時に「リスクで考えりゃ分かりやすいな」と思いついた
糖尿病と似ていやしないか?と思ったのだ。
糖尿病になると、食事制限や場合によってはインスリンの注射をして血糖値を一定レベルになるようにコントロールしておくことが必要になる。これをしないとそのときの体調の問題(トラブル)が生じるだけでなく、先々重篤な合併症(ダメージ)を引き起こす可能性があるからだ。
糖尿病の治療はリスク管理の側面が強い。
発達障害に話を戻す。発達障害者にありがちな聴覚・視覚の過敏。苦手な刺激にさらされると心身のダメージを生じることがある。単に「周りと感覚が違う」とか「不快」ってな問題なのではない、ダメージなのだ。
聴覚過敏が酷い人であっても静かな環境にいたら当然「音あたり現象」は起こらない。
私も聴覚過敏が結構強いのだが、ダメージが生じていない状態が続けば余力が生じるのか、適当に音楽を楽しめる状態にもなる。
「音あたり」からのダメージがなければなんだかんだでパフォーマンスが上がる。「音あたり」は体調や苦手な音への暴露量で起こる確率が変わってくるので音あたりのリスクを下げるために体調管理、不要な音のカットをするわけだ。
(不要な音のカットにはデジタル耳せんが大いに役立ってくれている→デジタル耳せん関連記事はこちら)
聴覚過敏の場合、「リスク→トラブル→ダメージ」で考えられる。糖尿病の場合と非常によく似ている。
他の「特性」とやらに関しても同様に考えられないか?
なんかできそうである。表にしてみた。
リスク
トラブル
ダメージ
社会的学習不足
対人トラブル、職場でのトラブル
自己肯定感の低下リスクの増大
うつ等の精神症状発生リスクの上昇
コミュニケーション学習不足
対人トラブル
自己肯定感の低下リスクの増大
うつ等の精神症状発生リスクの上昇
感覚過敏現象
音あたり、明るさあたり等
心身の不調
感覚鈍磨(痛みでよくある)
怪我や病気に気がつかずに悪化させる
生命リスクの、回復の遅れ
言語の理解の偏り
対人トラブル
自己肯定感の低下、うつ等の精神症状
自他の区分のつきにくさ
コミュニケーション学習に問題が出るリスクの上昇
暮らしにくい世界観が構築されるリスクの上昇
自己肯定感の低下リスクの増大
うつ等の精神症状発生リスクの増大
暮らしにくくなる誤学習
対人トラブル、生きづらさ感の発生
自己肯定感の低下リスクの増大
うつ等の精神症状発生リスクの増大
音声言語が聞き取れなくなる
対人トラブル
自己肯定感の低下リスクの増大
うつ等の精神症状発生リスクの増大
焦りやすさ
少しの負荷の増大で焦る
パニック現象
身体運動の不具合からくる見た目の不自然さ
いじめ
PTSDリスクの増大
身体運動の不具合
動きにくさ、疲れ、肩こり等
慢性的な心身の疲労
けっこうな部分でリスク→トラブル→ダメージという流れがしっくりくる。一部ダメージ自体がさらなるリスクの増大といった感じに多重化しているものもあるが、基本は変わらないだろう。
リスクとして捉えることで見えてくるもの
リスクの列に位置するのは従来「特性」と呼ばれ治らないものと言われてきたもので、この強弱が障害の重さと見る人も多い。
だが、リスクと捉えると全く違ったものが見えてくる。
ここにあるリスクは少しくらいなら定型さんでもあるものが多い。だがリスク自体が低いのでトラブル頻度は低い。必然的にダメージも食らいにくい。
発達障害児者でもリスクを低レベルで維持しながら成長、生活した場合、トラブルに至らないことは多々ある。
発達障害者の抱える問題が定型者でも起こりがちな事であることは「発達障害者の抱える問題がリスクであると考えれば別に不思議なことではない。
そして成長段階でリスクが増大していくケースが多いことも考えると、発達障害は上記リスクを増大させるリスクが高いということと定義づけてもいいのではないだろうか?
そう、発達障害とは、「コミュニケーション能力の発達」「社会的学習」「感覚刺激への耐性」などを中心にトラブルとそれによるダメージが発生するリスクが高いという障害なのだ。
ちょっと図にしてみよう。
左があれこれ困難を抱えた発達障害者、右が定型発達者 一番上に載っているピンクのいがいがはダメージである。
もちろん違いの根っこはリスクでしかないので、環境如何で逆転することもあり得るというのが下図。
発達障害者であってもたまたま周囲におっとりした急かさない人が多いとか、たまたま割とマイペースで仕事をできる職につけたとか、たまたま静かな住環境だったので聴覚過敏が発動しないとか…まあとにかく運が良ければ、多少の違和感程度でトラブルにあったりダメージを食らったりすることなく生きていける場合もあるだろう。(上の図の上)
逆に定型者でも学校でいじめがはびこってたとか、運悪くブラック企業にはいってストレス最悪とか、すぐ隣の田んぼがいつの間にか高速道路になって騒音が増えたとか、いろんな要因でトラブルやダメージが増えることはある。(上の図の下)
とはいえ、発達障害者では、進学や、就職、結婚、昇進、転職などを機に急にあれこれしんどさが噴出したなんてケースが結構あるのを考えると、運頼みでは限界があるということだろう。
人間、生涯通じて相性の良くない人や環境に出会わないで過ごせるなんてのは希なことだ。となれば、相性の良くない対象に遭ってもダメージを食らわないでいられるようにするとか、相性の良くない環境からスタコラサッサと逃げるためにもリスクを知って、できればマネジメントをしておいたほうが良さそうだ。
図にはしていないが、ダメージがさらにリスクを増やすことも良くあることだ。
傷つきやすさからいじけてしまうと学習機会を逃しやすい。学習機会を逃しやすければできることは増えにくいので、
自己効力感は下がりやすくなる。
とまあ、こんな感じで、ダメージが多いほどリスクがさらに増えるといった悪循環も生じるだろう。
リスクという視点から支援を見てみる
聴覚過敏を例にとって考えると、
リスクを減らす…「体調を整えておく(寝不足しないなど)」「よけいな感覚刺激の負荷を避けておく」「ハイリスクな音を把握しておく」
トラブルを予防する…「耳せん等でハイリスクな音を避ける」
ということになる(これは私の普段そのままだ)。
ものがリスクならマネジメントすればいいことだ。糖尿病の場合ではインスリンを注射したり糖質制限したりという日々のマネジメントは欠かせない。発達障害も同じだろう。
実際、社会生活上問題の少ない人ほど、リスクのマネジメントの習慣があると思う。
もちろんはじめから自分でそんなことできるわけはないので、幼少期には親や教師が不要なダメージから保護しながらマネジメントの手伝いをしているのだろう。そしてセルフマネジメントができるようになれば揺らぎにくい。
リスクのマネジメントをほったらかしにして、周囲の理解(と称したトラブル予防策)ばかり求めても、「不変の特性とやら」が多くなればなるほど周囲との軋轢を生むリスクは増えていく。いくら良い策でも周囲の準備・対応能力をオーバーすれば実施不可能になるのは当然であるし、そうなれば双方に不満がたまる。
こう考えると「なんちゃらの特性は生涯不変」という見方がはたして妥当なのかどうか?、細かく検討する時期に来ているのではないだろうか?という気がしてくる。
リスクマネジメントモデルで支援を考える
さて、そろそろまとめると、
リスクとそのマネジメントという観点で発達障害児者の状態を見ていく方が、支援を考えていくうえで効率が良いだろうと思うというのが結論だ。
この路線で考えていくとわりとすんなり支援の道筋が見えてくる。
リスクマネジメントで考える成人発達障害者支援とは
発達障害児支援とは成人の場合の支援にプラスして
とまあ、こんな感じになるだろう。
個別のリスクについては今後考えていくつもりだが、とりあえず適応を悪くしやすい誤学習についてはいま鋭意まとめているのでそう遠くないうちに書けると思う。
というところで本稿おわり。
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