このシリーズ記事、後半は、「しない」ということば(拒否の意思表示)を活用したコミュニケーションがなぜ「難しい」のかについて、さまざまな角度から考察しています。前々回、前回のエントリで、「しない」ということばの「難しさ」の要素の1つとして、「しない」を教える対象の行為については、それまでに「する」という経験を繰り返していなければならないし、「しない」を教え始めて以降も、「する」ほうの経験も重ねていかなければならない(そうしないと、「しない」を覚えたら「する」を忘れてしまう、という自閉症児にありがちな失敗に陥ってしまう可能性が高くなる)、という話題について書きました。このように、よく似た状況下で、2つの反応についてそれぞれ異なった結果(強化・弱化)を与えることで、2つの反応の両方を適切にコントロールして学習させていくことを、ABAの用語で「分化強化学習」といいます。これは例えば、冷蔵庫に「お茶」と「おやつ」の2つの絵カードを貼っておいて、子どもが、のどが渇いたときには「お茶」の絵カードで要求してお茶を手に入れ、おなかが空いたときには「おやつ」の絵カードで要求しておやつを手に入れる、といった単純なものも含まれると思いますし、より実践的なものとしては、子どもが何か欲しいものがあったときに、パニックで泣き叫ぶという反応をした場合には何も手に入らない(弱化)、でもことばや絵カードで「○○ください」と言った場合にはそれが手に入る(強化)、といった形で結果をコントロールすることで、もともとパニックで何かを要求してしまっていた子どもの行動を適切なことば・絵カードでの要求に切り替えていく「代替行動分化強化」といったものも含まれます。そして、今回話題にしているような「する」「しない」を使い分ける分化強化学習は、次のような形になります。・その行動を「したい」とき:「する」と反応するとその行動ができる=強化・その行動を「したくない」とき:「しない」と反応するとその行動を回避できる=強化このような強化構造を作り上げることで、ある場面で、親や支援者から提示されたある行動を、したいときは「する」、したくないときは「しない」と、ことばを使い分ける(高度な)コミュニケーションを学習させていくわけです。…と、ここまで読んで素直に納得しては「いけません」。ここには、実はごまかしがあります。それは、実際の学習場面では、子どもが「したい」か「したくない」かは必ずしも分からず、「する」「しない」を正しく使い分け、親の側も正しく強化できているかが分からない!ということなのです。つまり、子どもがその行動を「したい」と思っている(いた)か、「したくない」と思っている(いた)かは、少なくともその反応をした時点では分からず、分かるとすればその答えに基づいて親が対応した後にようやく分かります(やらずに済ませようとしたら怒る、やらせようとしたら怒る、やらせようとしてもやりたがらない、トイレの場合は行っても何も出ない、etc.)。その時点でやり直しても、あまりうまい分化強化学習にはならないわけです。ここが難しいのですね。これについて、銅解決していけばいいのかについて、次回は書いてみたいと思います。(次回に続きます。)