今回のシリーズ記事では、我が家でのホワイトボードを活用した(あるいは、きっかけにしたさまざまな)コミュニケーション療育の話題について書いています。さて、前回のエントリでは、娘が夕食後、家族が家事を始めると機嫌が悪くなることが多い、という現象に対して、問題解決のために最初に「(遊んでほしいサインを出しているので)遊んでもらいたがっているのではないか」という仮説を立ててみた、ということを書きました。そして、実際にその仮説に基づいて「夕食後、しばらく娘と遊んでみる」という働きかけに取り組んでみたわけですが、遊んでいる間は少し喜ぶものの、その後家事に戻ると結局同じように崩れてしまうため、抜本的な解決にはならなかったわけです。働きかけがうまくいかなかったときは、その働きかけの前提となっている仮説が間違っているか、その仮説は正しいものの、選択した働きかけが必ずしも適切でないか、どちらかということになります。今回の問題については、確かに一緒に遊ぶとその間は崩れることはないので、その部分では働きかけとしてまったく間違っているわけではないようですが、比較的長い時間(20分程度)遊んでも、その後家事を始めると結局同じように崩れてしまうことから、「より重要なもの」に対して働きかけることができていないように思われました。ですから、そういう意味ではやはり「機嫌が悪くなるのは遊んでもらい足りないから(だから、もっと遊んであげればいい)」というシンプルな仮説では十分でないことは間違いなさそうです。そこで着目したのが、「娘の機嫌が悪くなるタイミングと、回復するタイミング」です。娘が崩れるのは、家族が家事を始めるタイミングでした。そして、家の中の状態が「夕食モード」から「入浴・就寝モード」に移行して、娘が入浴のために洗面室に行けそうな状態になってくると、機嫌が回復してくる、ということに着目しました。つまり、娘が崩れている時間帯というのは、要は娘からみたとき、「夕食をとっている」という行動と、「入浴して寝る」という行動、その間にある「特に何もすることがない」時間帯だ、ということです。(補足するとすれば、従来は、家族がまったく同じ行動をとっていても、その時間帯に娘が崩れるということはありませんでした。こうやって切り出して記事として書いているとシンプルな議論に見えますが、実際には、日常の生活が流れているなかで、突然崩れ出すという事態が発生します。そこから初めて、何がパニックを生じさせる刺激・条件になっているのかを考えるために日常生活を見直すことになるため、実際には多くの試行錯誤を必要とする作業となります。)自閉症の人が「何もすることがない時間帯に崩れやすい」というのは、まあ一般的な話としてもよく聞かれることですし、そこで重要になってくる働きかけとして、「空いた時間に取り組むことができる余暇活動を提供していく」ということがあるといわれています。その問題については、既にこれまでも別のシリーズ記事で書いてきたとおり、「好きな音楽を(受動的にではなく、主体的に自分で自由に曲を選んで)聴く」という余暇活動ができるように、娘が3歳くらいのころから数年単位の時間をかけてじっくり息の長い取り組みを続けてきて、最近になってようやく、タブレットという素晴らしいIT機器の登場もあり、本当に好きな曲を自分で自由に選んで聞いて楽しむ、ということができるようになりました。ですからもちろん、上で触れた「夕食後に娘と遊ぶ」のなかには、しばらく実際に娘と遊んだうえで、「続きはタブレットで遊んでね」という形でタブレットでの音楽鑑賞に移行させてからその場を離れる、というところまで含んでいたわけです。それでも、やはり(それなりに効果はあったものの)家事を始めると崩れてしまいます。そこで、さらに一歩進んだ問題解決のために、この「何もすることがない時間」を構造化すること、つまり「見通しをたてられるようにすること」が次に必要そうだ、と考えました。(次回に続きます。)