心の健康診断

3
Nice!

ベンは生まれてからずっと近所のドクターで健康診断を受けている。
ベンの相談を最初にしたのも、自閉症の専門医を紹介してもらったのもその先生で、
夏の初めには、キャンプや学校にに提出する書類のために前々から予約をして年に一度は先生に会うことになる。

その予約はいつもベンの弟と一緒で、2人続けて診てもらい、先生と話すのは1回で済ませるようにしている。

今回もいつものように診断した順にベンについての話が始るのだが、じっとしていられない
本人は待合い室に戻り、僕と弟だけが診察室に残る。健康状態について説明の後、いつも日常生活についての話になるのだが、今回は 2人にとって子供から大人への橋を渡をするような話になった。

一人で出歩かせて良いものかと迷っていた僕に対して
「ベンは信号をきちんとまもれるなら、IDと携帯を持たせて行かせ
てみてもよいと思いますよ」

弟と顔を見合わせるが、先生も僕らが随分と前から一人歩きの練習をさせ
ているのを知っているので、澱みのない笑顔でそう言ってくれた。

「ベンの体と同じように心もどんどん成長していますから、
独立心も出て来たのだと思います。」

確かに、最近は本屋でも後ろをつきまとっていると、
どこかに行ってくれと言われる事が多くなった。

一通りベンの話が終わると今度は弟の方に話が移る。
こちらは、本人に直接話しをするのだが、体に関する注意が終わると
「さて、君は自閉症のお兄さんを持つ訳なんだが、それはどんな風に感じている?」
と質問される。

弟は、別段取り立てる事も無い受け答えをしていたが、笑顔でその受け答えを聞いていたドクターは確認をとるかのように、弟を見て言った。
「君に自閉症のお兄さんが居るということはこれからも決して変わる事が無い。ベンのことを理解しなければならない場面が沢山あるだろうけど、それはこれから君が一生かかわって行くことになんだよ。わかるね。」

弟はただ頷いて「OK」と答えていたが、僕はその先生の言葉を聴いて胸が一杯になってしまった。苦しい程にわかっている現実なのだが、実際に僕らよりも長くベンに関わるであろう弟にそれは全くその通りであることなのだが、家族以外の人から言ってもらえることが
一緒に聞いている僕にとって、とてつもなく大きな課題を与えられた運命のタイトルを聞かされるかのような気持ちにさせられたのだった。

そして、それはドクターという立場にある人が言う事によって、ポジティブな重みのある言葉となった。

年に一度のかけがえのない健康診断が終わり、僕らは夏に向かって行ったのだった。