文部科学省がNICUのない8つの国立大学にNICUをつくるとのこと。突拍子もないことを言い出すものだと驚いた。ノーベル賞の南部博士を招聘して科学忍者隊を結成することにしたくらい言われたらもっと驚いたかも知れないけど。科学忍者隊なら5人で済むけど、NICUを回すのにリーズナブルに行くなら一カ所5人じゃ済まないんだよね。まさか今さら当直と超過勤務で回そうとか言わないよね。ギャラクターなみに構成員あつめないと苦しいんだけど、各大学に人は集まるんだろうか。一般小児病棟とはまた別に当直をたてなければならないし、医師の数だけでもそうとう必要なんだけれどもね。いろいろしんどいことはあっても、なにさまNICUは小児科でももっとも儲かる部門なんだから、今までその土地の大学病院にNICUがなかったってのはなかったなりの理由とか事情があるものなんだろうと思う。マンパワーが足りなくて小児科一般病棟の当直とは別にNICU当直を立てるのさえしんどいというのがかなり有力な「理由とか事情」のひとつだろう。そういう大学病院にかわって新生児に高度医療を提供してきた一般病院が、それぞれの土地にあるんだろうと思う。そういう病院は厚生労働省管轄ではあるけどね。そういう土地の大学病院で、上から言われたからと急遽NICUを作ろうとしたときに、いちばん懸念されるのは、限られたマンパワーを大学病院にふりむけようとした結果として、それまで地域で頑張ってきた一般のNICUからむりやり新生児科医が引きはがされるようなことにならないかということなんですが。実績も経験もあるような施設が潰されて、頭まっ白な施設が一から出直しなんてことになったら、地域の新生児医療は沈没しますよ。霞ヶ関ではそういうことはきちんと考慮されているのかな。限られたリソースを可能な限り有効利用しようという精神があるのなら、このように画一的に大学病院にNICUを作るという方法論を先に立てるのではなく、各々の土地での需要とリソースの状況に応じた柔軟性のある対応がなされるべきじゃなかろうかと思う。集約化の必要が叫ばれる現在、たいていの土地での最適解とは、現時点でその土地の新生児医療の中心になっている施設(おそらくは現時点で既に総合周産期母子医療センターになっているはず)に予算を突っ込んでさらに拡充するというものではないだろうか。現時点でまだNICUをもってない大学病院にNICUを新設するというのが答えになる地域もけっしてあり得ないとは言えないが、しかし、それが最適解となる地域はそうそう多くないと思う。すくなくとも、それが最適解ですと現場の新生児科医が答える地域はかなり少ないんじゃないかと思う。その柔軟性がもてないのは、ようするに、厚生労働省管轄の病院群と協調するのは嫌だってことなんだろうけれども、この期に及んでそういう縦割りの縄張り根性で現場を掻き回してくれるなよと切に願う。たとえば長崎大学病院にはNICUが無かったってのも今回知ってかなり驚いたんだけど、でも離島を抱えた長崎県では航空機が使える大村に総合周産期母子医療センターを置く従来の編成のほうが賢いのではないか。長崎大学病院NICU設立の陰で大村医療センターのNICUが潰れたらばかばかしいと思う。まあ、故郷に新生児科医のポストが増えたら万が一都落ちする羽目になっても糊口をしのぐあてがあっていいかなとちょこっとは思わないでもなかったけど。なにさま、今回のニュースを聞いてまず連想したのは、旧陸軍が海軍に愛想を尽かして自分で潜水艦とか空母とか作ってみたという故事なんだけれども。こういうメンタリティで旧陸軍も潜水艦の建造に着手したんだろうかねと思いましてね。本で読んで旧軍ってバカだよなと笑ってたんだけど、我が身に近いところで見せつけられると笑いが凍って背筋が寒くなる。崩壊しかかった戦線をなんとか立て直そうとする必死さはわかるが、その必死さの向かう方向が微妙にずれてて滑稽ですらある。滑稽っても他人ごとならすなおに笑えるんですがね。大学病院にもすでにNICUを立派に運用しているところが数多くあるんだから、さすがに個々の施設が旧陸軍の潜水艦同然とは言えないかもしれんが、しかしNICU医療に手を出そうとしている文部科学省は潜水艦や空母を運用しようとした陸軍と精神的にあんまり変わらないんじゃないかな。NICUも潜水艦も単体で造るだけ造ったってそれほどの戦果にはならんのではないかね。それなりの人を乗せて艦隊に組み込んで組織的に運用せんと。もうちょっと歴史を反省して、海軍とよく相談して限りある資源を軍全体で効率よく配分しようというつもりにはなれなかったのだろうか。それとも今回は海軍のほうでも陸軍の潜水艦配備を要望したんだろうか。