オーティズム ザ・ミュージカル

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Nice!

ドキュメンタリー映画というものの面白さは、半現実体験を出来る点と、実際に起こった現実を見る結果の重みだろう。「Autism: The Musical」は、僕ら自閉症者の親にとって目にいたいほどに飛び込んでくる現実の映像記録であり、まさに半分現実に体験しているような気持にさせられるドキュメンンタリーだった。プレビューを見る限りでは、美しい感動のストーリー的扱いになっているが、このドキュメントは自閉症をテーマにしているわけで、当然のことながら実際の話は単純な進行をしてゆくことは無い。それぞれの親が持つ夢とそれに立ちはだかる壁、それらを一つにまとめてミュージカルを完成させようとする指導者とのぶつかり合い。混沌とした中から、1つの光を導きだすような作業の過程を見てゆくことになる。フォーカスのあたる5人の子供達は、それぞれに違った発達をし、それぞれに特技を持ち、それぞれの家庭環境がある。僕はミュージカルの成功というテーマよりも、子供達の背景にあるたくさんのストーリーに心を打たれる部分が多かったのだが、それはやはり自身を重ね合わせるからだろうか。 「あるとき、ドクターの提案でこの子のすることを全部真似してみたの。ぐるぐると回れば、私も一緒に回ってみる。手をひらひらさせたら私もしてみる。それで、こうした普通ではない動きを構わずに一緒にしてくれる人として頼んだのが演劇の人たちだったんです。」それから、彼女は自分の子の世界と自身の世界を繋ぐ方法として演劇をすることを思いつくのだが、このお母さんこそがこのドキュメンタリーの主人公的存在なのである。「ミラクル・プロジェクト」と命名されたこの劇団は11人の自閉症児で構成され、その発起人・指導者は医者でも先生でもなく、一人の自閉症児の親なのだった。そういった意味で、やはり一人の親としてたくさんエネルギーを与えてもらうことにもなり、特に僕のような彼らの世界を知りながらアートに携わる者として喚起させられる部分が多いにあった。そして、何よりこのテーマを取り上げて製作するに至ったディレクター、配給元のHBOに大きな拍手と感謝の気持を送りたい。