地球と一緒に頭も冷やせ! 温暖化問題を問い直すビョルン・ロンボルグ / / ソフトバンククリエイティブISBN : 4797347236ビョルン・ロンボルグ氏によれば今の温暖化対策としての温室効果ガス削減では、温暖化を防止できるわけではないという。せいぜい温暖化を5~6年先送りする程度の効果であると。たったそれだけの効果のために、とくに排出権取引みたいな得体の知れないことに巨額の金をつぎ込むのはどうなのかと氏は問う。それよりもいま現在の貧困対策にお金を使ったらどうなのか、同じ額のお金をHIV対策とかマラリア対策とかにつぎ込んだほうが、救える人命はよほど多いという。国同士で約束するとしたら、GDPの何パーセントを温室効果ガスを出さないエネルギーの開発に使いますとかいった内容のほうがいいんじゃないかとも言う。彼の目指すところは、温暖化そのものの防止より(そりゃまあ防止できたらそれに越したことはないんだが)、温暖化してもやっていけるようなタフな態勢の構築のようだ。たった5~6年というのはなんだかファイナルファンタジーXの「ナギ節」を彷彿とさせる。ゴアのナギ節とかフクダのナギ節とか呼んで欲しい人もいるんだろうかと思う。人類の罪あるいは排出する温室効果ガスのために「シン」あるいは地球温暖化という怪物が世界を脅かすようになり、世界を支配するエボン寺院は機械を使うのが人間の罪であるといい、その罪のためにシンが生まれ人が集まって繁栄する場所を襲ってくるようになったと説く。ちょうど人類が排出した温室効果ガスのために生まれたシンあるいはハリケーン・カトリーナが、海から襲ってくるように。思想もまた厳しく統一されている。世界はシンに対する恐怖で凝り固まっているので思想といってもシン対策のバリエーションに過ぎないのだが、エボン寺院が唯一認めるのは「究極召喚」によるシン打倒のみ。他の方法を提唱したりしたら異端として厳しく糾弾される。ロンボルグ氏も科学界で袋叩きも同然の目にあっている。しかし究極召喚によりシンを倒し、シンの来襲を恐れないで済むナギ節と呼ばれる期間が訪れたとしても、やがてシンは復活し、ナギ節(過去1000年のあいだに4回かあったらしいが)は終わりを告げる。そういうものらしい。究極召喚の核心を握る登場人物によれば「人の罪が消えることなどありますか?」ということで人間は永遠にシンに苦しめられる運命らしいが、IPCCのコアなところには「温室効果ガスが消えることなどありますか?」とか曰う人もあるのかも知れない。ゲームの主人公であるユウナたちは、究極召喚ではなく、自分たちの技を地道に鍛えてシンに挑み、ついに打倒し、永遠に続くナギ節をもたらす。そういう夢物語みたいな解決は地球温暖化については誰も提示できないけれど、でもロンボルグ氏の説くところのほうがユウナたちの路線に近いものがある。得体の知れない効いてる期間も短いものに、その派手さに判断停止して有り金ぜんぶ賭けるようなことはせず、地道に実効性のある対策を重ねていこうよという提唱である。ただ彼の説くところはファイナルファンタジーⅩ世界で言うならシンに襲われても平気な世界ということになるから、一部の人には受け入れがたいのも当然かと思う。でもなあ、海からシンが襲ってくるのになんでポルト・キーリカは海辺に木造建築の村を作ってるんだよとか(あれじゃあシンのまえに台風で潰れるぜ)という突っ込みは私もしたしなあ。ハリケーン・カトリーナなんてルイジアナ州上陸時には5段階中の3段目くらいのレベルなんだし、それで犠牲者が多く出たのは貧困層を川の氾濫原に住まわせて治水対策も怠ってたからだろという反省はあってもいいと思う。個人的にはリュックのほうがすき。