朝日新聞に母乳育児に関して世間の誤解を助長しかねない特集記事が載せられた由で、日本ラクテーション・コンサルタント協会が緊急声明を出している(参照:PDFです)。ちなみに朝日新聞の記事は朝日のウエブサイトで検索をかけても見つからなかった。いちおう読んだ記憶はあるのだが、私自身の印象としては、わりと文献なんか調べてまめに取材もして、方向性は間違ってるけど態度としてはまじめに書いた記事だと思った。記事の原文をご参照いただけないのが残念である。ラクテーション・コンサルタント協会の声明から内容をご推察願いたいと申したらルール違反だろうか。私見であるが、やっぱり母乳哺育とかカンガルーケアとかは、じっさいにやっているところを見て意外とうまくいくもんだねという実感を持ってるかどうかで、認識が極端に異なるんじゃないかと思った。それは例えば飛行機のようなもので、たとえば19世紀の人にジェット旅客機の設計図を見せても、それが空を飛べるのだと信じる人はかなり少ないんじゃないかと思う。朝日新聞の記者さんも、たぶん母乳育児の上手くいっているところを見たことがなかったんじゃないかと、私は推測している。巨大な金属塊が飛行できるなんて信じられないと19世紀の人が仰るのと同じ水準で、母乳だけで上手くいくということが信じられないんじゃないかと思う。でも19世紀の人が飛行機を信じられないからといって、彼らを未開だと見下すのは間違いだ。彼らがこんなもの飛ぶはずがないと言ったとしても、ある意味でそれは正しいことだからだ。19世紀の人がジェット旅客機の設計図を見せられたところで、やっぱり19世紀にはジェット旅客機は作れないし飛ばせないのである。飛行機にはじゅうぶん強くて軽量な金属材料が必要だし、それを精密に加工する技術も必要だ。機械技術のみならず、真っ平らな滑走路が引ける建設技術とか、計器飛行のための通信技術とか電子技術とか、色々とインフラが必要だろう。それのない19世紀に、ジェット旅客機だけが単独で実現することはあり得ない。精密加工といえば20世紀に入ってからでさえ、零戦のエンジンのボールベアリングは今のパチンコ玉ほどにも正確な球形ではなかったというし。19世紀という時代が飛行機を信じられない環境であるのと同様のレベルで、朝日新聞社というのは母乳育児を信じられない環境であるのだろうなと、今回の記事を読んで思う。朝日新聞社というのは記者さんがご自身で母乳育児ができるような職場じゃないんだろうな。出産後の職場復帰が困難だったり、仕事中の搾乳とかできなかったり。母乳にこだわってると出世できなかったり。推測だけど。環境に負けず独立不羈で母乳育児を完遂したとしても、自分の子だけ見てただけでは認識を変えるには不十分かも知れない。子育て中の社員同士で母乳育児について語り合ったり助け合ったり、社外の子育て中の親御さんと交流があったりとかいった、豊かな人間どうしのつながりのなかで、多くのこどもたちが母乳で育っていくのに接していると、なお、いろいろな認識が深まっていくのではないかと思うのだが。それは母乳に限らず、いろいろな世の中の叡智についても。そうしてしっかり子育てをした社員がその後も不利益なく(いやむしろその過程で得た知恵ゆえに)出世する人事システムとか、そういう懐の深さを朝日新聞社がどれほど備えているのか。母乳育児を問うた記事で、問われるのは朝日新聞社自体であるように思える。