活かされた時間

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Nice!

ベンはステージにあがると、にこにこしながらギターを弾きはじめた。3つのコードと音だけで演奏できる「ルイ・ルイ」だ。2人だけの演奏だが、もう一人の子がコードを弾けるので、ベンは単音3つを弾くだけで何とかなっている。幼稚園児から高校生までの自閉症児が一同に集まっての学芸会は、今年もそれぞれが出来る事を一生懸命にやっていた。どうしたって比べることの出来ないこのパフォーマンスを見ていると、表現することの純粋な喜びが目の前に広がってくる。車いすに乗った高校生の女の子は、アリシア・キースの「No One」を歌った。無心に歌う表情は幸せに満ちあふれていて、聴いている側の気持も彼女の喜びに合流してゆくのだった。パフォーマンスを見ていると、本当にそれぞれに違った自閉症の症状があり、単に障害を持っているというだけの観点に加えて、それぞれの障害を考えさせられる場面でもある。ある生徒は自閉症に関してのスピーチを何のよどみも無く読み上げ、先生やスタッフに感謝の辞を述べるが、客席ではステージに上がることもままならず、スタッフと一緒に座っていなければならない生徒もいるのだ。だからクラスがあっても、それぞれの能力に合わせて結局は一人一人に対応してゆく必要があるわけで、先生方の努力も大変なものに違いない。今後、自閉症教育の専門家がたくさん必要になってくるのは間違いないし、スタッフを減らさない為の予算を確保しておくことは、彼らの将来にとって絶対不可欠だろう。幼稚園クラスの演技を見ていて、ベンが小さかった頃の事を懐かしく思い出す。皆がそれぞれに、それぞれの方法で成長してゆくのだった。