長野の印象

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Nice!

長野県のような地理は初めて経験した。世界の縁が山岳として明瞭に区切られ、内部の凹地に世界が広がっている。盆地なのは京都も同じだが、長野は世界の果てまで霞むこともなくくっきりと見えるというのが違う。周囲の山岳の規模や峻厳さも桁違いだ。下界と同じなのは重力だけといった観のある、独立した世界。背景雑音も小さい。規模こそ違えスペースコロニーを想起した。旅行の行く先でも朝はNHKのニュースを見ることにしている。まったくの物見遊山で旅行した記憶はほとんどなくて、朝はちゃんと起きて会場へ出向かねばならぬ学会出張ばっかりだから、朝の行事進行はあるていど日常のパターンを踏襲しなければならない。その点、NHKのおはよう日本は全国共通のニュースと地元のお話が決まったパターンで出てくるので、見知らぬ土地でも安心である。とくに天気予報を見ると、その土地の広がりや人の活動範囲がだいだいどれくらいと考えられているかが分るような気がして興味深いのだが、長野では長野県一県で完結していた。北部中部南部の三分割。他には名古屋と東京が紹介されただけであった。こんなにシンプルな天気予報を他で見た記憶がない。静岡も新潟も富山も山梨も、隣県の情報はまったく無し。京都大阪など釜山や上海同様に無視されていた。長野ではそういうものなのだろうか。ちなみに京都では同じ枠で和歌山や徳島まで天気予報しますが。しかし長野を中心に見た地図には刮目した。長野から東南へ下れば東京、南西へ下れば名古屋である。今まで長野という土地には、海沿いに広がる文明から取り残された辺境「テリトリー」、いわば日本の「残り」であるという印象を持っていたが、実際に来てみると、隔絶した地形とあいまって、こここそが日本の隠れた中心にある別世界という気分になってくる。夢見がちな青少年に、ここに秘密基地を作って天皇を移せば米軍ともう一戦できそうだという幻想を抱かせたのも、あながち無理ではない。危険な土地だと思う。周りの山も厳粛なくらい高く見えて、敵の爆撃機はあの3倍も高いところを余裕で飛べるんだよという事実のほうの厳粛さを、つい忘れそうになる。