テレビドラマに登場する自閉症者は、きちんと型通りの生活をして、パニックを起こさない限りは物静かな人物であることが多い。これも1つのタイプなので決して間違ってはいないのだが、自閉症者のイメージとして一般の人が持つのは恐らく殆どがこういったレインマン的なものだろう。もっともレインマンは特定の分野に限って天才的な能力を持つ「サバン症候群」なので、自閉症といってもさらに稀にみるグループになる。自閉症に起因するという説もあるが、高機能自閉症者なら誰もがそういった能力を持っているかのように勘違いされている場合も多いのだ。さて、ベンはどうかというと前途した記述に全くそぐわない自閉症のタイプで、簡単にいうと自由奔放型とでも名付けようか? 形式めいた事もするにはするが、意外にフレキシブルで絶対に○○でなければならない的なものは少ない。笑わないわけでもないし、無表情でもない。感情表現は必要以上にあるような感じさえする。そんなわけで、小さい頃には全く自閉症の兆候にあてはまらないように見え、言葉の遅れと言われ続けてきた。そして、それは確かに今を持ってしてもあてはまっていないのだった。ベンが自閉症であることの決定打は、自分以外の世界との交信が無くなってしまう事。はまり込んでしまうと夢の中にいるようになってしまう。昨日は学校に迎えにゆくと、読み書きの先生が最近のクラスでのベンの様子を教えて下さった。「ベンは好きな勉強以外はやりたくないようで、最近は私が質問しても上の空でいることが多いですね。宿題もやっていないようですし」。先生は苦情を言うというスタンスではなく、ベンのことを一生懸命に考えてくださっているからの発言だというのが話し方から受け取れる。宿題は必ずやってゆかないと気が済まないベンだったが、ここにきて状況が変わりどうでも良いことになってしまったのか、単に忘れてしまっているのか。どちらにしても好きでないことをやらないで済ませてしまうという考え方に基づくものには違いなさそうだ。がっかりした気分にさらに追い打ちをかけるように、担任の先生はベンが怒って机を叩いたり、蹴り飛ばしてしまったという話をして下さり、状況は穏やかではないことを知った。自由奔放型と名付けた通り、感情のおもむくままに行動してしまっているようで、自分の中でのルールはおろか、社会の規律を乱すほどの傍若無人ぶり。即座に先生の前で注意したが、事の重大さに気づいたのかベンは「I’m sorry」と先生と僕の両方に言い続けている。 思春期における感情の起伏がそのまま行動に現れているようで、さらに話を聞くと、気に入らないことがあるとゴミ箱を蹴ったり、何もしてもいない友達が自分のことをからかっていると思い込んで言い合いになったりということもあったそうだ。理由なき反抗?やれやれどうしたものかとため息をついていると、夜も11時をまわりベンが「Good night, I’m doing good job」と言いにくる。しばらくして部屋を覗くとBill EvansのWaltz for DebbyのCDを聴きながら寝ているベンがいた。どちらも寝る時の平和な儀式だった。