僕にとってのいつもの夏は、この時期3週間ある子供向けロック音楽キャンプの仕事。既に2週を終え、今は最後の週に突入したところだ。
決して良いサラリーでは無いこの仕事を、毎年悩んだ末に必ずするのは、自分が子供たちからもらえるエネルギーのせいだろう。
ベースを教える以外にバンド・コーチとして1週間同じバンドを担当するのだが、年齢によってバンドの捉え方も様々だ。
音楽的にも自我の発達する12、3歳のグループは難しい。全く関係のないところから集まった初対面の子供たちが、それぞれに自分の好みに音楽を口にし、それぞれに理想のバンド像がある。
そういったステージ以前にある10歳前の子供たちの方が、学芸会的アプローチが出来るので随分と楽でもある。
こちらが仕掛けた通りに口車に乗せることの出来る年齢なのだ。
ただ、12、3歳の子供たちの話は面白く、感心させられてしまう。そして、すべての事項に関してしっかりした意見を持っているのにも驚かされる。
先週のバンドのギタリストだったノアは13歳なのに相当なギターの腕前だ。テクニックだけでなく、リズムやフィールも天性のものを持ち合わせており、聞けば4歳からギターをやっているそうだ。
当然、夢はプロギタリストだろうと思い話をしていると、彼はミュージシャンではなく、弁護士になりたいと言う。
ミュージシャンとしては一瞬悲しい気持ちにさせられる発言ではあるが、彼の夢はミュージック・ロイヤーになることで、音楽を演奏する人の気持ちがわかるようにギターは演奏し続けたいそうだ。
まるで、新聞の真ん中のページくらいにある「この人」コーナーのインタビューのような立派な夢と答えに驚くとともに、僕の13歳の頃を思い出して比べていたのだった。
エレキを買う頃ではあったが、僕は音楽専門の弁護士などという職業すら知らなかったのは間違いない。
そんなしっかりとした子供に囲まれた最初の2週間だったが、最後の週は8歳から10歳のかわいらしい年頃のバンドを担当になった。
この年齢の子供たちのエネルギーはすさまじい。見ていると、音楽は技術だけでは出来ない事をあらためて感じさせてくれるのだ。
ギターのアレックスはまだ8歳。フェンダーのミニギターが丁度体にぴったりのサイズなのだが、右手でピッキングは出来ても左手でフィンガーボードを押さえていることは殆どなく、すべての弦をかき鳴らす。
ところがそのタイミングとアクションには莫大なパワーがあり、周りにいるもの全てを圧倒するのだった。
僕が「アレックス、ギターソロだ!」と言うと何やら手を動かして弾いているのだが、その後はギターを置いて床にダイブする。本人は客席に向かってのつもりのようだが、迫真に迫るロックスターの姿がそこにあった。
金曜の夕方にはコンサートになり、1週間の成果を発表する。本番前にステージにあがる前の緊張、高揚した子供たちを見ていて、自分の高校時代の自費コンサートを思い出した。
わくわくして緊張した、「あの感じ」は手に取るようにわかり、僕はいまだに音楽という仕事に就いていられる事を改めて感謝するのだった。
2日後には夏のAパートが終わる。