さて、ここまでいろいろと遠回りをしながら、思いつくままにこのテーマについて語ってきました。もともと、「聲の形」というまんが作品でとりあげられていたいじめの1つの典型例をベースに、いわゆる「弱者様バッシング」的ないじめ、私的制裁について考察をしていたわけですが、参照していた「聲の形」が、後半はいじめそのものではなく、それに対する主人公の贖罪にテーマが移行したため、こちらのエントリでも、議論の対象を「仕組み」の問題に移行し、こういった弱者バッシングが起こる制度的な背景について考えていくことにしました。そして、その制度的な問題を解決するための福祉・支援のフレームワークとして、「ベーシックインカム」という福祉モデルについて考えてきました。議論が散漫になってしまったきらいもあるので、改めてポイントを整理すると、・弱者の人の生きる困難を少しでも軽減し、「生存権」を守るために、「福祉制度」というものが存在するのが近代社会の特徴である。・ただ、そういった福祉制度は、現行制度においては「弱者と認定された人にだけ提供される」ものであるため、それが提供されない「強者」からみると、「甘い汁を吸っている」という風に誤解されやすい。・そのような誤解が生まれると、「社会が制裁しないなら我々が制裁する」ということで、弱者への私的制裁=いじめが発生してしまうことがある。・このような問題が起こる理由の1つは、「弱者が困窮しているということ」が十分に伝わらず、「甘い汁を吸っている」という「誤解」が生じていることにある。したがって、「困っているということの理解を広める」という、当たり前の「啓蒙活動」が、実はとても大切だということになる。・それとは別に、そもそも「認定を受けた弱者にだけ支援が与えられる」という現行の福祉制度自体に、このような問題が生じる構造がある。・この構造を改革する1つのアイデアとして、すべての人が同じ支援を受けるという「ベーシックインカム」という制度があげられる。・ベーシックインカム制度を1国だけで導入することは簡単なことではないが、もし導入が実現すれば、単に「弱者いじめ」が起こりにくくなるだけでなく、「生き方・働き方・自立」の多様性が許される柔軟性の高い社会が実現するかもしれない。といったところでしょうか。ところで、このエントリのきっかけとなった「聲の形」は、あさって17日に最終巻である7巻が発売され、完結します。また、「このマンガがすごい!2015」のグランプリにも選ばれ、さらにアニメ化も決定するなど、2014年を代表するほどの、存在感のあるマンガに「成長」しました。このマンガがすごい! 2015『このマンガがすごい!』編集部 宝島社来週のエントリで第7巻のブックレビューも書きますが、こちらのエントリでも、改めて「聲の形」を簡単にご紹介しておきたいと思います。聲の形 第7巻(完)大今良時講談社 少年マガジンコミックス第6巻は表紙に将也がいないという「衝撃の表紙オチ」(笑)から始まっていましたが、第7巻ではぶじに表紙に将也が戻ってきました。(手を振っている先に誰がいるのか? これはコミックスを買ってのお楽しみです。)第6巻までに起こったさまざまな事件が、この第7巻で収束に向かっていき、そしてエンディングを迎えます。耳の聞こえない少女、西宮硝子と、彼女ををいじめたという罪を背負い、それを贖おうともがく耳の聞こえる少年、石田将也、2人の物語のラストをぜひ見届けていただければと思います。