「障害者へのいじめ」というデリケートなテーマを扱った、気鋭の漫画家大今良時氏の話題作、「聲の形」のレビュー(単行本1巻および連載中の内容までを含んでいます)記事です。
聲の形 第1巻大今良時講談社 少年マガジンKC(上が楽天BOOKS、下がAmazon)※連載中の内容まで含む、ネタバレの内容を含んでいますので、未読の方はご注意下さい。さて、ここまでで、「聲の形」の読み解きは、いったん終わります。(1月17日に単行本の2巻が出ますので、そのときに改めて少しレビューしたいと思っています)聲の形 22014年1月17日発売予定(予約実施中)この物語は、ほんとうにさまざまな読み方ができる懐の深さをもっていると思います。それはまず何より、ヒロインの硝子の言動の「理由」がいまだ完全に「謎」であることによるものだと思います。いじめの先頭に立っていた将也に対して「友達になりたい」と手話で伝えようとした硝子。いじめの加害者から被害者に転落した将也に対して、(被害者であったにも関わらず)最後までただ一人支えようとした硝子。そんな硝子の行動を「偽善だ」と切り捨てた将也に対して、ただ一回、感情をあらわにぶつけて取っ組み合いのけんかをした硝子。そして、5年ぶりの将也との再会に対して、複雑な表情を見せた後、走って逃げていってしまおうとする硝子(これが単行本1巻のクライマックス)。まあ、ぶっちゃけ「聖人」なわけですよ。そして、ここで「謎」といっているのは、その「聖人」性というのが、単純に、硝子がとても性格のいい天使のような人格者だということで片付けられるのか、それとも、それは自分が障害を持っていて、社会に受け入れてもらうためにまとった「殻」なのか、あるいはそのどちらでもない何かなのか、ということになるわけですね。このまんがでは、硝子の内面が直接語られることは(少なくとも現時点では)ありません。すべて、将也の目をとおして見えることだけによって語られています。そして、そういう意味で、まだ「硝子の『聲の形』」ははっきりと見えていない。そこがこの物語がいまだ「謎」に満ちている点であり、これからのこの物語を面白くしていく最大の要素なんだろうな、と。ところで、上記Amazonのリンク先をチェックしていたところ、このまんがの作者である大今先生の、こんなコメントが掲載されていました。「点と点で生きている人たち。遠く、離れ離れの小島のように生きている人たちを描きたくて、この物語を描きました。みなさまに読んでいただければ、この上ない幸せです」うーんなるほど。大今先生は、この「聲の形」の登場人物を、「点と点で生きている人たち」として描いているんですね。その点と点があるとき偶然につながると、そこに「線」ができる。その「線」を伝わってくるものが、さまざまな「形」をした「聲」ということなのかもしれませんね。ちなみに、少年マガジンで連載中の最新のストーリーでは、この第1巻とは似ても似つかないようなラブコメ的展開が始まっていて、これはこれで「これをどうやって収拾させるんだ!?」という興味も尽きません。最後に、これまで書いたことと内容はかぶっていますが、以前、この「聲の形」について、10月24日に連続ツイートした内容を以下に転載しておきたいと思います。10月24日 @sora_papa「聲の形」について考えてること。(以下ネタバレ)このまんがのヒロインである西宮硝子は、かなり明確に「名誉健常者として生きることを選択した当事者」として描かれている。そして、そのポジションがスクールカースト最下位となったとき、彼女へのいじめが始まった。そのいじめを煽動していた主人公の石田は、教師へのチクリをきっかけにスクールカースト最下位に転落し、逆にいじめを受ける側になる。その時点での西宮硝子の行動は、やはり「スクールカースト最下位ではない名誉健常者」として典型的に望まれている行動に収まっているように見える。そんななかで、石田と(恐らく人生初めての)取っ組み合いの喧嘩をした西宮は、ここである意味「名誉健常者モデルからの一時的な逸脱」をしているように見える。その意味で、西宮にとって石田はこの事件により「特別な存在」になったと言えるんじゃないかと思う。でも、その後転校した西宮は、石田と再会するまで、また名誉健常者モデルを選択する生き方に戻っているように見える。そしてそれが、石田との再会によってまたもや揺るがされる。さてこのあとの展開やいかに。というのが、現時点での個人的なこのまんがの読み解きかな。ちなみに11月15日に単行本の第一巻がでますお(*´∇`)ノ