NOといえる(ようになる)療育 (16)

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Nice!

このシリーズ記事、後半は、「しない」ということば(拒否の意思表示)を活用したコミュニケーションがなぜ「難しい」のかについて、さまざまな角度から考察しています。さて、前回、「しない」ということばを効果的に学習するためには、できるだけ多くの行動に対して、その行動を「しない」、というコミュニケーションを同時並行して学習することが必要だ、ということを書きました。つまり、「Aをしない」と同時に、「Bをしない」「Cをしない」「Dを…」といった形で、さまざまな行動について「しない」という意思表示をさせるトレーニングを同時に行なうことで、「しない」ということばの意味を正しく学習できる可能性が高まるわけです。そのためには、日常にかかわるさまざまな行動に対応する「ことば」(上記でいうA、B、C、…にあたるもの)をしっかり学習し、定着させておかなければならず、ここも1つのハードルになってきます。(これもまた、知的な障害の重い子どもには難易度の高い部分を含んでいるのですが、それはまた後日触れたいと思います。)ところで、このように「Aをしない」「Bをしない」「Cをしない」…と、さまざまな行動に対して汎用的に「しない」ということばを学習していくことは、単に「しない」ということばの意味を正しく学習するということ以外に、もう1つ、もっと重要な目的をもっています。それは、「しない」ということばは、汎用性のあることばとして学習されて初めて意味がある。ということです。例えば、旅行先で何かアトラクションで遊ばせようとしたときに、子どもが怖くて遊びたくないなら、例えそれが初めて見たものであっても「しない」といって欲しいわけです。トイレ専用の「しない」であっても、ないよりはましですが、そういう般化をぜひ期待したいわけですね。ですから、複数の「すでに学習している行動に対する『しない』の学習」が終わったら、今度は、新しい行動や、これまで一度も『しない』と言ったことのない行動に対して『しない』と言ってその行動を回避するコミュニケーションの学習に発展させていくことになります。これが、「しない」の学習プロセスのラウンド2になります。ラウンド2の「しない」学習においては、「しない」を学習する場面のバリエーションは、多ければ多いほどいいことになります。トイレ、外出中の行き先、食べ物、イベントやアトラクションへの参加、たくさんの異なった場面、新奇な場面で「しない」と言うとやらずに済んで、そう言わなければやることができる、そういう分化強化学習を繰り返すことで、「しない」というコミュニケーションの学習の般化が期待できます。そのためには、さまざまな「しない」の対象となる「動詞」を、ことばで言われただけ(あるいは絵カードを見せられただけ)で数多くイメージできるだけの「動詞語彙力・内言語力」があればあるほど望ましいことになりますし、完全に覚えていることばだけで発話するのではなくて、新しいコミュニケーションにも果敢にチャレンジしていくようなコミュニケーションスタイルを子どもに身につけておいてもらうことも、また大切なことだということになります。ちょっと失敗したり間違っているようなコミュニケーションでも、頑張って新しい場面で言いたいことを言おうとしたことばなら、叱ったり注意したりせずにほめて伸ばしていく、普段からのそんなコミュニケーション療育のスタイルも、とても大事なんじゃないかと思うわけです。(次回に続きます。)