マンガとしては面白いです。が…プロチチ(3)著:逢坂 みえこイブニングKCコミック(講談社)コミック単行本が発売になって話題になっていたのは少し前でしたが、ちょっと機会を逸して買いそびれていました。ようやく先日、たまたま書店で見つけて買うことができましたので、さっそくレビューしてみたいと思います。既にこのシリーズをお読みになっている方はご存知だと思いますが、このマンガは、主人公がアスペルガー症候群の男性で、人生でさまざまな失敗・苦労をしつつも理解ある女性と出会い、結婚して子どもを授かって、仕事をやめて主夫として子育て・家事に打ち込んでいく(その後アルバイトを始めて「兼業」主夫になりますが)、というストーリーの「育児マンガ」です。タイトルの「プロチチ」というのは「Professional Father」というところからとられています。もともと、既成の価値観にとらわれない、新しい生き方をずっとマンガで表現してきた「逢坂みえこ」さんが、これまでにない子育てマンガ、障害をモチーフにしたマンガを世に問うたということで、登場以降、発達障害・自閉症療育界隈でも大きな話題となっている作品ですね。まだ社会的に明確に「認知」されるようになってからそれほど時間がたっているとは言い難い「大人の発達障害」をいちはやく作品に取り入れて、しかもピントがずれたり誤解が混ざったりせずにかなり本質をついた鋭い作品になっているあたり、さすがに実力派である逢坂みえこさんだなあと感じさせる内容になっています。さて、このコミックシリーズ、第1巻はひたすら、フリーダムにトラブルが起こり続ける「赤ちゃんの子育て」と、決まったパターンからの逸脱やアドリブ的対応がものすごく苦手なアスペルガー症候群の父親とのぶつかり合いが描かれた「100%子育てマンガ」でした。そして第2巻になると、主人公は「子育て」の経験のなかで自分の存在意義を感じて自信を回復し、改めて(かつて挫折した)外の世界に出て行くことを決意し、子どもを保育所に預けて書店でアルバイトを始めます。そしてそのなかで、子どもも保育所という「外の世界」に出て行くことになります。子どもを保育所に預けながらバイト(パート)で働く、という(母親視点だと割とありきたりな)イベントを、アスペルガー症候群の父親の視点で描いた(もちろんトラブルだらけなわけですが(笑))のが、この第2巻ということになります。そして、いよいよこの第3巻です。第3巻では、上記で触れたような、第1巻や第2巻でみられたような意味での「ストーリーの進展」は、実はありません。主人公は変わらず書店のバイトをしながら子育てをしているし、奥さんは出版社の編集部で忙しいままだし、子どもは保育所に預けられています。子どもについては、大所帯の新しい保育所に移るというイベントが設定され、これを伏線にして第4巻では波乱の展開も予想(期待?)されますが、とりあえず第3巻では特に大きな動きはなかったりします。そのうえで、「バイト先の書店での絵本の読み聞かせイベントでトラブル」とか「家事分担について夫婦喧嘩勃発」とか「バイト先の店員に懇願されて参加させられた合コンで奇妙な出会い」とか、そういう、ありていにいえば「古くからあるプロットに乗っかった、マンガとしてはそんなに新鮮味のないイベント」がいくつか起こって、問題が起こって解決して、それで第3巻は終わります。↑主人公が合コンに誘われるシーン。なので、今回は、アスペルガー症候群である主人公と、フリーダムな存在である子どもとのぶつかりあいによって子育て上のトラブルが発生して、それが障害ゆえに深刻になって、それが幸運や周囲の人の理解や創意工夫などによって何とか解決する、といった、これまでの本シリーズの独自性みたいなものがほとんど感じられませんでした。単に「ちょっと変わった青年がいろいろドタバタに巻き込まれるコメディマンガ」みたいな仕上がりになって(しまって)いる、と感じてしまいます。まあ、実際の子育てにおいても、子どもを保育園とか幼稚園に入れたあたりから、だんだん「事件」と呼べるようなユニークなイベントは減ってきて、ある意味「安定した生活」になっていきますから、この「プロチチ」も、ちょっと小さな壁にぶつかってしまったかな、という印象は率直なところあります。とはいえ、ライトノベルのシリーズでも、ときどき「短編集」「アンソロジー」みたいなのをはさんで、サイドストーリーから物語をふくらませたりしながら、また本編に戻ってストーリーを続けていく、みたいな展開はよくありますし、この「プロチチ」シリーズも、今回の第3巻はある種の「サブエピソード集」的な位置づけになって、また第4巻から「子育て」と「主人公の人生」そのものが大きく揺さぶられるような、第1巻・第2巻に連なる本格的なストーリーに戻ることを期待したいと思います。一応、第3巻のなかでもいろいろな伏線がはられていますので、それがどう展開するか楽しみではありますね。第4巻に期待です。※その他のブックレビューはこちら。