1回ブックレビューをはさんでお休みしましたが、こちらのシリーズ記事を改めて続けていきたいと思います。このシリーズ記事の後半では、「しない」ということば(拒否の意思表示)を活用したコミュニケーションがなぜ「難しい」のかについて、さまざまな角度から考察しています。前回のエントリで、「しない」というコミュニケーションを教えるときは、それ単体を教えるのではなく、「する(したい)」というコミュニケーションとセットで教える必要があること、その2つのコミュニケーションをセットで療育することで、この療育は「分化強化学習」となること、そして、この分化強化学習を成功させるカギの1つは、「子どもが言ったとおりに反応する(子どもがすると言ったら必ずその行為をさせて、しないと言ったら必ずその行為をさせない)」ことで、強化と弱化(消去)の「エレガントな関係性」を最大限活用することにある、といったことを書きました。この「しない(やりたくない)」と「する(したい)」の分化強化学習を成功に導くために考慮しなければならないことを、あといくつか考えてみたいと思います。まず大切なこととして、「弱化」とか「消去」だけでは、新しい行動を教えることはできない。ということがあげられます。弱化や消去は、既に形成された(あるいは偶然に自発した)不適切な行動の生起頻度を下げることはできます。でも、それ自体は新たな行動を学習させる効果はもっていません。つまり、「しない」というコミュニケーションを学習させるには、1)「したい」ときに「する」と答える = 「する」が強化される2)「したい」ときに「しない」と答えた場合 = 「しない」が消去/弱化される3)「したくない」ときに「しない」と答えた場合 = 「しない」が強化される4)「したくない」ときに「する」と答えた場合 = 「する」が消去/弱化されるこの4つのマトリックスのうち、まずは優先的に 3)を繰り返し経験する必要がある、ということになります。逆にいうと、2)の経験が多くなってしまうのは、「しない」をトレーニングする最初のうちは好ましくない、ということになります。つまり、ここには、トレーニングの「時系列的な流れ」が存在するわけです。前回のエントリの趣旨も含めて、このあたりを整理すると、こうなります。a.まずは「したくない」ときに「しない」と言わせる訓練を優先的に実施。b.その上で、「しない」と「する」を使い分ける分化強化学習に移行する。c.その際、必ず子どもが言ったとおりに反応しなければならない。ところで、ここで当然に問題になるのは、「しない」と言ってやらないで済ませようとしたら子どもが非言語的にやりたがるそぶりを見せた場合、あるいは「する」と言ったのにやらせようとしたら子どもが非言語的に嫌がった場合です。こういった場合に、親が気を回して子どもの非言語的な要求表現にそのまま応えてしまうと、前回エントリの「エレガントな構造」が崩れ、言語トレーニングとしては失敗してしまいます。そこで、こういったときは以下のように対応するのがいいと思います。d.子どもが明らかに言い間違えたときは、「する」「しない」を正しく言い直させてから、子どもの要求に応える。これで、エレガントな構造を壊すことなく、子どもの本来の要求に応えることができます。(とはいえ、これが頻繁に発生する場合は、まだトレーニングの機が熟していないということになるとは思います。)(次回に続きます。)