NICUが閑散としている。紹介がないのだから仕方がない。こういう暇なときに英気を養わねばならない。若い人たちにはこういうときこそまとめて文献を読むのだよとか言い置いて、自分はさて今日は江文峠へ行こうか途中越の手前まで行ってみようかと遊ぶことばかり考えながら定時に医局に戻ってくる。だいぶ日も長くなったし5時過ぎに引き上げてもまだ2時間は明るいぜ。へへ。しかし会議室でなにか会議が開かれている模様で、予定表を見ると各科部長会議だった。俺もNICU部長だから出なければならない。いつも忙しいふりをしてさぼっているけれど、NICUが閑散としているのは偉い人にもばれているから今日ばっかりは逃げられない。こういう会議も出てみるといろいろ勉強になる。まず狭い会議室に偉い人を集めると加齢臭が凄いことになるというのが教訓だ。臭いから逃げるというわけにもいかないと我慢して座る。集まった面々の中ではまだ若輩者だからいらない口を挟まず偉い人のいうことを黙って聞くことにする。俺ももっと年をとったら目が霞んで点滴が入らなくなるから、その時分にはこういう会議でそれなりに賢そうなことを言えるようになっておかないと病院に居場所がない。なにごとも勉強だ。偉い人ってのはどういうふうなことをしゃべれば良いんだろうと思って聞いてみる。たしかに賢い発言をする人がある。俺が若い頃思っていたほどには年寄りは馬鹿ばっかりではない。しかしその賢い発言に触発されての、俺だって賢い発言ができるんだぜと言いたいだけのあんまり内容的には賢くない発言もあってやれやれと思う。俺が子どもの頃に思っていたほどには大人は賢い人ばっかりではない。