Estate (Summer)

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Nice!

目を閉じて演奏に聴き入っていると、自分が演奏しているのにもかかわらず、聴き手になってしまう事がある。先日の帰省ライブで演奏した「エスタテ」で訪れたそんな瞬間に、僕は涙をこらえきれなくなってしまったのは、自分のいる場所と時間に押し出されるかのように湧き出て来たものだった。閉じていた目を開くと、そこはステージで傍らには一緒に演奏している仲間がいる。「ああ、僕はこの素晴らしい曲を演奏しているのだな」と我に返るのだが、20年という時間の隔たりを超えて戻って来たこのライブ・ハウスには、昔と同じ風景があった。あのとき見て感じたものを、時を隔てて経験すると、そこにはせき止められていたたくさんの時間と出来事が一気に流れ出してくるような気がして、どうにも止めることが出来ない。そこには憧れの国に行く事を夢見て演奏をする自分が居て、その先に会うベンと弟のことなど知るはずの無い自分が居た。そして20年が経った今、大好きな音楽を仕事として続けていられる幸せな自分と、それを助けてくれる肉親や仲間達が1つの場所に居る。命が尽きて、もう見る事の無くなった人の笑顔があり、生きている人の声と拍手があった。大切な肉親と仲間がいるこの国と、自分の家族がいるもう一つの国とが自分の中でやっと一つにつながったような気がした。