「キュア」 各論的には不愉快だが、読まれるべき作品である

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Nice!

キュア cure田口ランディ / / 朝日新聞社スコア選択: ★★★★土曜の夜に田口ランディ著「キュア」を読了した。久々に、力のある物語を堪能した。読む者を引き込んで放さない力をもった物語である。理屈の上では荒唐無稽な、理不尽で泥臭い物語なのだが。物語の力というのは理屈にあうとかあわないとかいった話とは違う水準に存在するのだと、読者として思い知らされるような作品である。じっさい、各論的なつっこみどころは満載なのである。主人公には特殊な治療能力があるらしいが、電磁力に関係するらしいその力を手術室で使おうったって、手術用手袋がその力を絶縁してるんじゃないかとか。腫瘍病棟が地下にありますって、患者さんが寝起きする病棟を地下室に置くことが法令上許されてただろうかとか。ガラスの保育器っていったい何十年前の代物だよとか。そのような、と学会的に一笑に付せる些事に混じり、安楽死に関して、ホスピスに関して、あるいは未熟児の予後や障害新生児のフォローに関して、現代医学に関する著者の悪意が感じられる描写が多々ある。読んでいて気持ちがざわつく。思いつきで書いたのなら許し難いところであるが、著者はご家族の病気でさんざんご苦労なさった経験をお持ちなのだから、病院に足を踏み入れたことがないわけではあるまい。そのご経験をふまえての著作なら、無碍に排撃することもなるまい。患者さんの中にはこういうふうにお考えの人もあるのだと、拝聴の上で一応は胸に納めるものであろうと思う。一応はね。同じネタを何回も使い回したら許さないけど。著者が本作で提示する死生観には、現代医学に関する描写の不愉快さをおぎなってなお、胸を打たれる。この死生観は医療を変える力を持つと思う。おそらくは崩壊を食い止める方向に働く力となると思う。この死生観ゆえに本作は読まれるべき作品だと思う。少なくとも医療関係者にとっては、医学的描写の不備や悪意をがまんして最後まで読む理由にはなると思う。この場に要領よく要約する筆力を持たないことには寛恕を乞う次第である。