子どもに向かい合う仕事をしている者として、本当に大事なことをもう一度じっくり考えさせられた本です。
発達障害のお子さんたちを見ていて感じるのは、お子さんの発達の問題だけでなく、心の育ちの問題や、ご家庭の養育の問題、愛着の問題、母子関係、家族関係・・・様々な課題を抱えながら子どもたちは生きていくのだ、ということです。そして、同時に、親御さん自身の育ちや子育ての力にも、たくさんの課題が見えてくることがあります。発達課題だけを見ていると、本当に大切なことを見落としてしまいます。子どもが生きていくということ、子どもが育つということの本質をしっかりとらえておくことの重要性を最近とても感じています。
「多くの心理的援助の考え方や具体的な技法は、こころ豊かでセンスのある日常生活の振る舞い方から自然に抽出されたものを、ある方向に沿って一つにまとめたものだと考えることができるでしょう。」
「子どもに接する者は、どれだけ忙しかったり個人的につらいことがあったりしても、どこか工夫して気持ちにゆとりをとり戻せるように考えていることが大切でしょう。なにげない一言やちょっとしたまなざしに、傷ついた子どもたちはとても敏感です。」
著者・村瀬嘉代子先生の、子どもへの真摯なまなざしには、本当にたくさん学ぶものがあります。
ちょうど、『こころの科学 137号(2008年1月号)日本評論社』でも、児童福祉施設をテーマに、村瀬嘉代子先生・青木省三先生・田中康雄先生の座談会「社会的擁護とこころの居場所」が特別企画されています。
どんなに発達障害の診断に優れているとか、治療が上手いとか、そうした医療的なテクニックよりも、本当は子どもが「人としてあること」をよく理解し、「こころが深く柔らかい大人に」なることこそ、子どもを見る者に必要なことなのでしょう。
「傍らに寄り添い、背景の要を汲みとること。そして生きることへの信頼とこころの居場所をともに育んでいくこと。そして、この子の未来を祈ること。」
まだまだ遠い道のりでしょうけれど、一生懸命努力していきたいと思います。