日本のカップ焼そばは素晴らしい。こちらに住む日本人のも友人も「あれだけは欠かさず食べる」と言い、あれは、本当の焼そばを超えたカップ焼そばという一つのカテゴリーを確立しているという話しになった。
そのカップ焼そばに類似した、アメリカ仕様の商品が去年頃からスーパーに並ぶようになった。形状は全く変わらず、メーカーも日清とマルちゃん。決定的な違いはその作り方にある。
訴訟を起こされる事を想定したのか、カップ焼そばでは当たり前の湯切りのプロセスが無い。何と水を規定ラインまで入れ電子レンジで調理するという斬新なもので、加熱完了後も蓋を閉めて蒸らすように注意書きがある。
これが中々上手く出来ていて、出来上がり時には丁度お湯がなくなって粉末ソースを混ぜると日本製のものにかなり近くなる。果たして味の方はというと、両者の製品は違うコンセプトで作られているのだ。
日清の商品は焼そばではなく、Chow-meinという中華料理として販売されている。というのもアメリカでは焼そばよりも名前が通っており、中華料理で必ずオーダーされるメニューの1つ。だから、アメリカでの中華料理麺の味を作り出そうとしている。
一方マルちゃんの製品はYAKISOBAとして売られており、味の想像がつかない人のためにテリヤキ・フレーバーと書いてはあるのだが、実際にはソース焼そばの味に近い。難を言えば日本のものより少し甘みが強いといったところだろうか。しかし僕にとっつてはこのマルちゃんがカップ焼そばの味であり、日清のチャウメンはとんでもなく奇想天外な味なのだ。
さて、この2つのジャンク・フード、ベンはどちらも文句を言わずに食べるのだが、恐ろしいことにベンの弟はこのチャウメンの方を気に入り、焼そばの方は食べようとしない。
「何でそっちの方が好きなの?」聞いてみたところで的確な答えを言える訳もない。アメリカ人向けに作られたチャウメンにはきっとそれなりの理由があるからだろう。僕だって何故ソース味が美味しいのか理由など無い。
信じがたい息子の選択に、やはり親子というのは血がつながっていても他人だなと実感し、育った環境の違いや様々な体験が人を作り上げてゆく大きな部分となるのを目の当たりにする。
午後、レッスンに来る予定だった子供のお母さんから慌てた様子で電話がかかってきた。「今日のレッスンはキャンセルにして下さい。息子が学校で何かあったらしくて、機嫌が悪くて口も利いてもらえません。一体どうしたら良いのか、私にもさっぱりわからないのです。」
12歳の子供がお母さんに言えないような仕打ちを学校で受けたとも思えず、何も言わない子供も子供だが、慌てるお母さんにもしっかりしていただきたい。
僕は「いいですよ、キャンセル料なんて要りません。そういう事はよくありますから」と電話を切ると、「息子さんも他人なんですから」と付け足していた。