なぜ自閉症スペクトラム(ASD)児はお母さんの気持ちに応えないのか?前回の記事「発達障害児のお母さんたちの怒りと嘆きを考えてみる」に対していただいたあざこさんのコメントを読んで私はふと考えた。確かに定型発達のお母さんではしばしば「気持ちの呼応」を期待するようだ。まあ、だからこそいらつく、悲しくなる、やるせない気分になるなどがおこってくるのだろう。気持ちへの呼応とか配慮、それは別段ASD児に無理なことだとは私は思っていない。トラブル時のASD児は基本パニック寸前ただ、いきなりは無理なのが自閉ちゃんが自閉ちゃんたる所以である。ちょっとメカニズムを考えてみる。さて、お母さんの前で子供ジュースをこぼしたという状況を考えてみる。定型発達児の場合、まずお母さんの顔を見て、「がっかりしてそうな表情」「怒っていそうな表情」などを見てとり、そこにまず反応する。基本、自動的にお母さんの波だった感情を慰撫するのに適した表情になるし、お母さんの表情が「あやまる」「片付ける」等のその後の行動の動機となっていく。だが、これがASD児だとこういう流れでことは運ばない。まずジュースがこぼれてしまったことに対して「驚く」自分がやったにせよ、ジュースがこぼれることは想定外なのだ。想定外のことにビビるのはASD児の一八番である。そしてそこで行動が止まる。内心けっこうショックにまみれている。「こぼれてなくなってしまった→飲めなくなっっちゃった!」「どうしたらいい?」想定していた行動ができなくなってしまったことにショックを受けるのだ。そしてその後の行動を考え、切りかえなくてはいけないので焦る。「おかあさんの表情」に注目する余裕はとてもじゃないがなくなっている。となると「お母さんの表情」から得られる「行動指針」という情報は当然利用できないということにもなる。(適切な行動を学ぶまでに時間がかかるのはこのため)この時点で幼いASD児にはかなり負荷の高い状況なのだ。ここでお母さんが「なんで謝らないの」と怒ろうものなら、焦りから制御がききにくくなったASD児の脳みそは「謝るってなんで?」ということを考え始めてしまうし、「何に対して謝るのか?」を考えはじめるてしまいいつの間にか負荷が倍増。「お母さん怒ってる、どうしよう」も当然考えるが表情情報が使えないので判断エラーを起こす。負荷の倍増したなかで「どうしたら」も考え続けるがこれもまた失敗しやすい。「なんで固まってるの?なにか言いなさい」とでも言ったら「何か言えって何いえばいいの?」とか「いや、固まってるわけじゃなくて困ってて考えてるだけなんだけど」なんてのも頭に浮かんでくる。(もちろんこのときも行動は凍ったまま)かくして負荷が増えていって、負荷が許容量の限界超えると処理不能になって場合によってはパニックに移行。とまあこんな具合なんですね。感情に対する呼応を求められても、その求めそのものが認知できず、へたするとあさっての思考に入り込むのでどんどん周りはイライラするというメカニズムです。行動学習の動機からASD児の行動を考えるさて、ここで「トラブル後ににどうするか」?といった点に絞って比較すると★定型児の場合感情への呼応が行動の動機や行動指針の獲得につながる。★ASD児の場合行動の動機は基本自身の困り感や合理性への希求、また行動指針が他者から獲得できないので行動指針も自分の思考で作り上げるしかない。といったことになるでしょう。ざくっとまとめてしまうとトラブル時に親の発する感情表現に対し、定型児はそれを情報として利用できるので児にとっての負荷は下がるが、ASD児では気づくことが難しい上に気づいても負荷を高くなる可能性が生じる。といったところでしょう。年齢が低いうちは特にその傾向が強くなると思います。子供を育てるにあたって、親御さんの側の発する感情表現は多くの場合(要するに子が定型児の場合)子の行動学習上のメリットになるのですから、その自然な発露は生き物として当然という面もあります。ただ、相手である子供が同様の性質を持っていない場合は負荷をあげてしまうので行動学習を阻害する要因になりかねないということも確かでしょう。ですから感情への呼応、対応といったものをASD児が学ぶのには別の戦略が必要です。ジュースをこぼした時、「ぞうきんを渡し」→「適切に後始末すればいいことを教える」といった流れが終了した時に「次からはこう気をつけたらいいかもね」と今後の指針を提示し、その後に「ママもちょっとビックリしちゃったよ」「せっかく買ってきたのに残念」と語ってあげて欲しいんですね。そういう流れなら、「焦らなくてもちゃんと対処すればいい」を学んだ後にしっかり「お母さんの感情も動く」といったことが学べます。「焦らなくてもいい」を学べたら、結構ASD児もいろんなことに気がつけるようになりますし、他人の気持ちに気づいたり、配慮したりといったこともそこそこできるようになります。ASD児の定型児の場合と動機の形成部分や社会的情報収集能力に違いがあるので学ぶ順序が逆にならざるを得ないんですね。もしお母さんが感情への呼応、対応、配慮などを我が子に学習させたいのなら(生きていく上である程度必要だとは思います)、「焦らないことを教える」→「感情の存在を教える」という順番で教えていくことがASD児の行動制御力及び感情対応力を伸ばす近道だと私は考えます。焦らない→他者から学べる→他者の感情に気がつく→他者への配慮を学ぶという経験を重ねることでASD児も着実に成長します。ちなみに、逆にありがちだけどわりと危険なのパターンは以下のようなものでしょう。「そんなところに置くのが悪い」「これが悪い」を言い立てると、”なにか気に染まぬことがあったときにはやった人の悪いところを列挙して怒ればいい”という誤学習の元になりかねないです。かといって「あんたはあっち行ってなさい、お母さんが片付けとくから」で済ませると、「自分は判断・行動しなくていい」という誤学習の元になりかねません。後年自分で判断して動くことができなくなるということにつながるでしょう。表情や視線を読むのが苦手なため、「親の行動パターンだけしっかり見ている」ということがこういった誤学習の原因になるのかと思います。お母さんの気持ちへの反応が乏しいと、定型発達のお母さんは内心複雑だとは思います。この子いったいどうなっちゃんだろう?一生このままの親子関係?等々でもそれは、気持ちのやりとりをお子さんが理解するようになるまでのしばらくの間のことです。順序が違うので定型のお子さんよりちょっと時間がかかりますがそこはご理解を!といったところで今日はこのへんで。=======================イベントのご案内(大阪)★今回の記事でとりあげたような危ない誤学習の発見と防止の詳しいお話もさせていただきます。仕事に家事に子育てに療育にと忙しくて最近ゆっくりリラックスすることなんてないわ~というお母さま方のために当ブログがとっておきのセミナーを用意しました、(開催地:大阪)2014年11月8日(土)13:50~/クレオ大阪中央「発達障害児の子育てTips講座+フェルデンクライスボディワークプチレッスン」詳しくはこちらの記事をどうぞ にほんブログ村 発達障害ランキング ↑ブログランキング参加してます。↑ 応援の1日1クリックを まあとりあえず お一つ ぼちっ↑と。