聲の形 第4巻(まんがレビュー)

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Nice!

ずっと追いかけているこのまんがですが、いよいよ第4巻が本日発売されました。聲の形(4)大今 良時少年マガジンコミックス聲の形 第4巻2巻、3巻は前の巻から2ヶ月間隔で出ていましたが、今回は3ヶ月空きました。それもあって、連載で追いかけている私としては、4巻の収録範囲はかなり前の話という感じになっているんですが、この第4巻には、大きく分けて2つの大エピソードが含まれます。※以下、マイルドなネタバレを含みます。ほんの少しのネタバレさえ読みたくない方はここで読むのをやめることをおすすめします。常識的なあらすじ程度なら問題ない、という方はまだ大丈夫です(笑)。その2つの大エピソードとは、「遊園地編」と「西宮祖母編」になります。(遊園地編)前巻(第3巻)の最後で思いきって告白するも伝わらなかった硝子と、なぜ急に走り去ってしまったかわからなかった将也。二人を含む橋の友人達は、休日に遊園地に遊びに行くことにしたのですが、なぜかそこには小学校時代のクラスメートがずらりと勢揃いし、楽しいはずの遊園地は、将也、硝子、それぞれのトラウマをえぐる残酷な場所に変貌します。(西宮祖母編)これまで、硝子との会話で少し出ていただけだった硝子・結絃の祖母が登場し、その祖母を巡る話のなかで、硝子の出生から障害の発覚、それによって人生を翻弄される西宮母、祖母、結絃といった「西宮家の過去の痛み」が描かれます。どちらの大エピソードも、硝子のもつ障害とそれに対する差別、あるいは障害を持たない側(健常者)から障害当事者に対してぶつけられる「(強者の)論理」といったものをとりあげており、第3巻まででラブコメ色の強まった物語を、改めて社会性・メッセージ性の強いものに引き戻すような巻になっていると思います。まあその分、第3巻の最後で盛り上がった、硝子の告白と恋心はどうなるんだ?早く二人の関係が盛り上がるところを読みたい!的な読者のニーズには、冷酷なまでにまったく応えていない(笑)ので、大今先生半端ないな(笑)と思ってしまいますが。唯一の救い?は、巻末に収録された番外編によって、硝子の「告白失敗後」の将也への気持ちがどうなったのか(続いているのか)を確認できるところくらいでしょうか。さて、ここから、本ブログのテーマに近いところでの感想を少し書いておきたいと思います。※ここからは本格的なネタバレになりますので注意してください。「遊園地編」の最大の見所は、観覧車のなかで植野が硝子に対してぶちまける硝子に対するホンネです。あのね 私はあんたのことが嫌い(中略)でも あなたも私のこと理解しなかっただから 遠慮なしに私に変なノート渡したり みんなの空気を読まずに合唱コンに参加したその結果 私はあなたを攻撃したノートに悪口書いて 陰口も言ったでも それはメッセージだよ「もう やめて」「私たちに もう 関わらないで」っていうそして あなたもやり返した 大人たちを使ってその結果 石田は友達を失ったし 私もたくさん傷ついた(中略)昔から そうだったよね何かキツイこと言われると すぐに「ごめんなさい」とか言って逃げる(中略)西宮さん ムリヤリ言ってるの バレバレだったよ?「ありがとう」も「ごめんなさい」も私 今日 確信したあんたは5年前も今も変わらず 私と話す気がないのよ!!まんがからの引用だとは思えない、とんでもなく長文の「演説」ですが、これでも半分くらいにまでカットしています。この植野の「大演説」、もちろん障害者支援という立場からのポジショントークをするなら、いくらでも反論はできます。硝子は「話す気がない」わけでもなんでもない。むしろ必死に話し、友達を作ろうとしていた。でも、それが植野からは「変なノートを遠慮なく渡す」とか「空気を読まずに合唱コンに参加」と映ってしまう。そして、そうやってコミュニケーションが拒絶されてしまっているからこそ、無理して「ごめんなさい」「ありがとう」と逃げることでしか問題を解決できないところに追い込まれているのに、それもまた「話す気がない」と言われるダブルバインド。そして、学校の支援を受けようとしたり、いじめの相談をしたりすると「大人を使って攻撃」と受け取られてしまう…こんな屁理屈をいう植野はひどいやつだ、障害当事者の困難が何もわかってない、と断罪することは簡単です。でも、です。植野は、必ずしも悪意なく、自身の正義に基づいて行動している、という点も見逃してはいけないでしょう。このまんがは、大人が徹底して役に立たないという点が徹底しているのですが(笑)、それは逆に、このような植野、硝子、将也、クラスメートが摩擦を強めていくなかで、本来なら先生や親といった大人はどのように行動すればよかったのか?ということをむしろ考えてみる方が生産的なのではないか、と思います。いずれにせよ、この遊園地編の植野の「演説」は、かなりタブーに踏み込んだ問題提起をしている点で画期的だと思います。さて、次に「西宮祖母編」ですが、実際にはこの編は西宮祖母の「葬式編」です。(前半ではネタバレを避けるために祖母編と呼んでいました)西宮祖母は1話登場しただけであっという間に亡くなってしまいます。そこから、西宮祖母と西宮母が経験した、硝子の障害をめぐっての夫と夫の両親との対立と離婚が語られます。西宮母は、硝子の障害の責任を不条理に夫家族から押し付けられ、何も支援しないどころか口汚く西宮母を罵って去っていきます。そして障害の発覚した硝子を「わしらの家にあーゆーのはいらん」と排除する、あまりに露骨な差別を隠そうともしません。この漫画にしては珍しい、擁護する余地のまったくないコテコテの悪人です。(逆に、登場人物として重要ではないということでしょう。)この編でのポイントは、母親は硝子の障害を受け入れきれずに障害と「敵対する」立場を選択し、妹の結絃はそのような母親の対応を理解できずに「敵対する」こととなり、家族のなかがバラバラになってしまった、という描写のほうでしょう。そんなバラバラの家族を辛うじて繋ぎ止めていたのが、両方の考え方を受け止めることができた祖母でした。その祖母の死によって西宮家に訪れる家庭の危機を、気がつかないうちに救う将也。このあたりは、とても心暖まる物語ですね。そしてそのいい余韻を残したまま4巻は終了。3巻とは違い、「静かな」終わり方の巻となりました。ただ…すでに連載は5巻相当分の終盤に入っていますが、第5巻は激動の巻になります。第4巻はその前の「嵐の前の静けさ」といったところですね。次号、第5巻は2か月後の8月16日発売予定です。