このシリーズ記事では、いま週刊少年マガジンで連載中の話題のまんが、「聲の形」をとりあげ、その中で主要なテーマ、モチーフになっている「障害者に対するいじめ」という観点から考察を加えています。 聲の形 第1巻・第2巻・第3巻大今良時講談社 少年マガジンKC単行本もよく売れているようですね。第3巻は、オリコンで週間セールスのベスト10に入っていました。ところで、今回のエントリあたりからは、議論が「聲の形」のまんがそのものからは少し離れていきます。「聲の形」自体の話題については、とうとうブログを別に作ってしまいました(笑)ので、ぜひそちらをご覧ください!新ブログ 「なぞ解き・聲の形」さて、前回のエントリの最後で、グラフのようなものをお見せしました。今回のエントリからは、この図を使いながら、「聲の形」でも見られるような「支援を受けている弱者へのいじめ」の構造をひもといていきたいと思います。前回お見せした図をもう一度掲載します。この図は、「社会的な弱者が、その社会でどのくらい困っているか」を単純化して示したものです。横軸は、ある社会に属する人が、その社会に対してどれくらい「適応し、力を発揮できるか」をプロットするための軸です。簡単にいうと、この横軸で左にいけばいくほどその社会における「弱者」、右にいくほど「強者」である、ということになります。障害があるなどの理由で、社会に適応することに困難を抱えている人たちは、この横軸で左側に集まることになります。一方縦軸は、ある社会に属する人が、その社会からどのくらい利得を得られるか、やりたいことが実現できる、豊かな生き方ができるかをプロットするための軸です。簡単にいうと、この縦軸で上にいけばいくほど「社会からたくさんのものを得られ、豊かで満ち足りた生活ができ」ていて、下にいけばいくほど「社会から得られるものが不十分で、健康で文化的な生活が脅かされ」るような状態にあることを示しています。こういった、社会という枠組みのなかで、個人が得たり拠出したりする資源(リソース)の量が、縦軸にプロットされる、という言い方もできます。ちなみに、その「リソース」のなかの最たるものは「お金」です。もっとも乱暴に単純化すると、横軸の「社会適応力」に対して、縦軸は「そいつがどれだけ金を稼げるか」を示している、となりますが、さすがにこれは単純化しすぎで、縦軸については、お金以外のさまざまな物質的・インフラ的、さらには道徳・規律的な面での社会的支援やリソースも含まれます。さて、説明が長くなりましたが、そういう目でもう一度この図を見てみましょう。ここまでの説明を踏まえてこの図を読みとくと、このようになります。・社会的弱者ほど、社会のなかで困っている。・もっとも弱い(左の端に近い)人たちにもまったく社会の側からの支援がなく、恐らく事実上生きていけない状態にあると思われる。つまり、この図は「社会福祉がまったく存在しない社会」のあり方を示している、ということになるわけです。言うまでもなく、ここで示されているのは近代国家のような社会モデルではありません。福祉の概念をもつ社会では、例えば社会的弱者に対して、下記のような「社会的支援(福祉)」が提供されるでしょう。これは、「社会」の側が、いわゆる弱者に対して特別に提供する社会的利得(ないしリソース)、つまり「福祉」を定量化したイメージで示しています。この図でいえば、一定の水準よりも社会への適応力の弱い人に対して、その「弱さ」に応じて3段階に区分けされた「福祉」が提供されています。イメージとしては、左から順に「重度の方への支援」「中度」「軽度」といった形になるでしょうか。次回からは、この「福祉」の概念を取り込んだ図を使って考察を続けていきたいと思います。(次回に続きます。)