ベンは映画が好きだ。そして鏡も好きだ。しかし、正確には映画は見るよりも、デイレクターや俳優の名前を覚えるのが楽しみで、鏡についても中の自分を見ているのだが、実際は反射しているものが動くこと自体を楽しんでいるようなのだった。時々連れてゆくショッピング・モールも大好きなベンだったが、行くと必ず興奮気味になり、バチバチと胸を叩くのと、目の前で手をヒラヒラさせる動作が連発してしまう。何度も注意するのだが、どうにも止められない。上の2つの事にふと気がついて、言ってみた。「ベン、映画の中の人のように歩いてごらんよ。そんな風に体を叩きながら歩いているかい?そして鏡に映っている自分を想像してごらん」にっこりして「OK Dad, I act like a movie star」と言うと、普通に歩き出した。何か本当に演技をしているようにぎこちないのだが、体も叩かず、手をひらひらさせる事もなく数分間は持たせることが出来た。「演技」することを忘れてしまったのか、その後はまた体を叩くのが始まってしまうのだが、また言うとしばらくは「演技」をしている。自分自身の感情を体で表す。刺激と喜びと不安と誘惑が入り乱れたベンには 外側から見た自分を想像する余裕など無いのだろう。ちょっと待てよ。僕らは普通という連続した演技を続けているだけなのかも知れないな。