Dream Boys

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Nice!

物事に対する反応が大袈裟な奴というものは居たものだが、今のベンは大袈裟を通り越して、自分で話を作り上げてしまう事がある。セリフ(台詞)口調の受け答えでも、語彙数が確実に増えているのは喜ばしい事なのだが、その解説の先には事実に反することが含まれているのが大変迷惑なのだった。学校では、先生から注意されたのをきっかけに前の席に座っている友達が、自分をからかっていると言い出したそうだ。「You are teasing me !」何もやっていない友達は、さぞかし当惑したことだろうが、パニック状態になった時の八つ当たりとも言える被害妄想はさらに発展して、先週の事件を迎える。ようやく整理のついてきた部屋に必要なものを買い足しに、週末の込み合ったIKEAにベンを連れて行った。IKEAでのベンはいつも割と楽しくしていて、その日もミート・ボールのランチや、展示されている部屋のディスプレイを満喫しているようだった。ただ、順路にそってデザインされた店内は死角も多く、一瞬目を離したすきに姿が見えなくなったかと思えば、すぐ横にある部屋のベッドに横たわっていたりするといったことがしばしばある。それでも何十回と通っていることもあり、見失っても何となく見つかるという甘えがあった。ショールームとマーケットが1階と2階に別れた構造はどこのIKEAも同じ作りをしているが、どちらの階も巨大なスペースであり、2階に居なければ1階にいるという事がすぐさま確認できるような場所では無いのだ。独立心が出て来たのか、最近のベンは人の話を聞かずに自分の判断で行動してしまう事が多い。そんな事からも僕がトイレに行く前に「1階に降りてよい」と伝えたのだが、指示を聞いた事を確認しなかった事に問題があった。ベンが先に1階に行ったと信じていた僕らは、彼を2階に残したまま1階に移動してしまったのだった。それでも10分ほどは危機感もなく、きっと先の方に居るのだろうと思っていたのがさらに時間が経つにつれ不信感に変わって来た頃に店内アナウンスがある。「ベンのご両親は近くの店員までご連絡ください」!気の弛みというのは重なるもので、いつもなら持たせている携帯電話も家に忘れてきていた。皆で顔を見合わせるや否や店員に連絡すると、2階の子供部屋のショールームに居るとの事。それぞれ別の経路を辿って駆けつけると、ベンは既に妻と一緒に居たのだが、彼女は「私が先に来て良かった」と言う。どうやら、ベンは係員の方と子供用ベッドに座って僕らの到着を待っていたのだが、その間「This is a disaster」(最悪の事態だ)、「Daddy going to punch me」(お父さんに殴られる)とか「I am scared」(怖いよ)などと言いながら泣いていたそうなのだ。全身の力が抜ける思いがしたが、確かに彼女の言う通り。ベンの周りは通行量も多いところで皆立ち止まりはしないものの、僕は遠巻きに見ている人の興味の対象になっていたことには間違いなさそうだ。現実と空想の世界を秒刻みで行ったりきたりしているように見えるベンは、迷子になった恐怖でパニックになり、その先に待ち受ける恐ろしい話を作り上げていたのだった。アイスクリームを食べて機嫌良く車に乗り込むベンだったが、僕の脱力感は簡単には戻らずに、次の本屋の駐車場では昼寝をすることにした。