用事でベンの学校に行ったついでに、こっそりと教室を覗きに行った。親の来校はアポなしでいつでもOKというのがポリシーであるだけに、いつ行っても「Hi,Mr.Takanashi How are you ?」と先生方が暖かく声をかけて下さる。
ベンは算数の授業中ということで、小さめの教室に8人ほどの生徒が座っていたのだが、何故かベンだけが立っており本棚の本を立ち読みしている。先生に
「授業中に勝手な事をしていてすみませんね」と言うと「ああ、いいんですよ、時々やってまた戻りますから」と、やさしい言葉。
しかし、そんなベンに目をつけたクラスメイトが「おいベン、おまえの親父が来ているぞ!本なんか読んでいて良いのか?」とからかう。ベンは僕の方を見て「Hi Dad」と言うのだが、続けてその友達に向かい「Hey, Don't say that. You are teasing me」(黙れ、からかっているのか)と言い返している。
以前では考えられないベンの反応に驚くとともに、いつもは全く自分の世界に生きているようで、ある意味とてもコネクトした世界に生きていることに気づかされた。一体ベンのコミュニケーションというのはどうなっているのだろう?
言われたら、言い返すスタイルはまさにニューヨークの人そのものだ。どんなに自分に非があろうとも言い返す。
年末に良く仕事をするエージェントの女性は、雇ったミュージシャンにクライアントから今後の仕事を横取りされることを異様に恐れており、常に言い合いの原因となる。
「ミュージシャンはクライアントに決して個人のカードを渡しては駄目。私の会社のカードを渡しなさい」
「それはわかっています。僕らはただ、クライアントに名前を伝えただけで、それも向こうからのリクエストだったんです。カードを渡したわけでも、電話番号を教えたわけでも無いんですから」
演奏を気に入ってくれたクライアントが次回も同じミューシャンを雇いたいために名前を確認することは良くあるのだが、それはエージェントである彼女にとっては直接仕事を取られてしまう恐怖であるようなのだ。
とにかく吠える、とりあえず文句を言うのは精神安定剤のような役割をしているのかと思い、最近はあまり真剣に受け止めないようにしている。そして、電話にもすべてメールで返事をすると、比較的落ち着いた状態を取り戻すのだ。
コミュニケーションとは文句の言い合いから始まっているのかも知れない。