Night Walker

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Nice!

子供にとっての夜の景色はそれだけでもエキサイティングなものなのだろう、夜の街で見る子供達は皆一様に生き生きとしている。ティーンの年代は夜の国への入り口で、友達と夜道を歩くだけでも大人な感じがしたものだ。

ベンも夜の街が大好きだ。きらきらと輝くサインや、ひんやりとした空気はベンの好きな物だらけなのだから無理もない。週末に仕事が無い夜は、ベンを「ナイト・ウォーク」に連れてゆく。

前回は、公園を通り過ぎてイースト・リバー沿いの高速道路を超えた遊歩道を歩いてみたのだが、夜に歩いてみると大人でさえかなりスリルのあるものだ。

同じ視線レベルで疾走してゆく車を右手に、左には真っ黒にうごめく川が迫る。アメリカにはこんなところに柵が無くても良いのかという場面に遭遇することが良くあるが、高速道路をまたぐ陸橋は川にせり出しているようで、階段の横には転落防止用の柵も無い。

ベンに近寄らないように声をかけると、「I don't want to die」と返事が帰ってきた。

真っ黒になって流れている川を眺めていると、治安の悪かった時代にはよく死体が流れて来たらしいと誰かが言っていたのを思い出し、見た人は本当に怖かっただろうと同情する。

それでも、新しい景色に感動したのかベンは家に戻る最中に「Dad, Thank you for doing night adventure trip」とお礼を言ってくれたのだった。

そんなナイト・ウォークに味をしめた僕は、自分の楽しみも兼ねて週末の夜のかけらを楽しみにゆく。

昨日は本屋にも行きたがっていたこともあり、夜11時まで開いているバーンズ・アンド・ノーブルスに歩いて行くことにした。

「ベン、ナイト・ウォークは危険だからな。酔っている人もいるし、ぶつかったりしたら大変なことになるから常に周りの人に注意して歩くんだぞ。」と言い聞かせ夜道を歩き出すと、いつものように手をちらつかせたり、不自然なアクションはあるものの、多少のコントロールの利いた歩き方だ。

街の光に照らされたベンは大人っぽく見えて、彼にもいつの日か友人と夜に外出したりすることもあれば良いなとふと考える。

土曜の夜の本屋は予想以上に盛況で、空いていたのは子供本のコーナーだけだったが、ベンなりに違った時間帯の本屋を楽しんでいたようだ。

床に座ったベンの前に「ウディ・アレンの本が欲しいのよ〜」とテンション高めに店員さんと話すおばさんが登場、僕は傍らで成り行きを静かに見守っていたが、おばさんの移動する先を邪魔する事も無く、うまくかわすことが出来た。

僕らには普通にある人との距離感も、こうした実際の経験から覚えさせないと、捉えることが難しく、平気で人にぶつかったり、場所を譲らなかったりすることがあるのだ。

帰り道は時間も遅くなり、あちこちのバーの前にはタバコを吸う人や、年齢確認のためのIDを出す人たちの列が出来たりして、賑やかな土曜日の夜は歩いているだけでも楽しい気分にさせてくれる。

僕らが通りがかったバーの前では、カップルが熱いキスを交わしていた。

ベンはすかさず「Man and woman kissing each other」と目の前の事実を言葉にしてしまう。ベンの正確極まりない注釈に、キスをしていた2人はパッと互いの口を離した。